第13話 『渇望の魔王』
いつからだろう、心が満たされたくなったのは。
ドラゴンと契約した時?
召喚士としてドラゴンとの契約は偉業だ。
あの時、あの瞬間は確かに心が躍った……はずだ。
それとも────の時?
あれはボクに枷られた使命だ。
満たされる云々の話だ。
でも、使命を果たすために過ごした時間は……。
ダメだ。
思い出せない。
どの記憶も曖昧になっている。
長い、長い時間が経った。
ボクが魔王になってから、永遠とも思える時間を過ごした。
その間、色んなことをした。
魔王という称号は人間を支配するには十分過ぎた。
東の国を始めとした周辺諸国に攻め込んだ。
炎に包まれ阿鼻叫喚する人間を眺めても、楽しいとも悲しいとも思わなかった。
当然、後悔や罪悪感もなかった。
つまらない。
大量の女性をさらったこともあった。
ハーレムを作りたかったのだ。
美女や美少女に囲まれた生活。
全員、死にたくないから必死にボクに甘えて、すり寄ってきた。
そこに愛というものは存在しない。
虚無だ。
ボクは女性を全員殺した。
つまらない。
つまらない。
つまらない。つまらない。
つまらない。つまらない。つまらない。
つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない────。
果てしなく渇く。
誰かこの渇きを癒してくれ。
×××
ある時、一人の女性がボクの元にやってきた。
濡羽色の髪と蒼い瞳が特徴的な美しい女性だ。
彼女は自らを『強欲の魔王』と名乗った。
驚いた。
ボク以外にも魔王が居たなんて。
話を聞くと、魔王は全部で四人いるらしい。
彼女は様々なことをボクに訴えてきた。
そのどれもが馬鹿らしい。
妄想癖でもあるのではないかと思ったけど、彼女の瞳は至って真剣だった。
結局、ボクは彼女の話に乗らなかった。
でも、彼女の話の中で一つだけ興味があることがあった。
──渇望の魔王、貴様の前にも必ず勇者は現れる。私を殺すであろう最強の勇者がな。
×××
「かはっ……」
気づけばボクは大量の血を吐いていた。
久しぶりに自分の血を見た。
まだ、赤かったみたいだ。
ゆっくりと視線を下ろすと、ボクの心臓から剣が伸びていた。
なんだコレ?
どうなっている?
勇者は確かにボクの目の前でドラゴンに喰われたはずなのに。
ボクは玉座の背後の気配にようやく気がつく。
視線を向けると勇者がいた。
「お前の負けだ」
「さっきの幻術はブラフか……」
あの時、賢者が使った魔法は二つだったんだ。
一つは幻術。
もう一つはきっと透過魔法だ。
幻術によって作り出された俺に注意を引きつけ、本体はボクの背後に忍び寄っていたのだ。
「勇者のヤリ方じゃないよ……卑怯者……」
「元勇者だ」
何が元だ。
キミの中に眠っている力は、錆びて輝きは失われているけど間違いなく勇者のソレだ。
ボクは力の入らない体を無理矢理奮い立たせ、玉座から立ち上がり勇者を見つめる。
「あ」
その時だった。
まるで栓が外れたように、ボクの奥底から感情が溢れ出してきた。
「あ、あ……」
ソレはずっと渇望していたモノ。
ずっと求めていたモノ。
勇者はソレをボクに与えてくれた。
「お前の記憶貰うぞ」
「あ、あぁ、ああ……」
瓶を求める勇者。
でも、ゴメン。
ここに入れたのは全く関係ない記憶なんだ。
そう伝えたいけど、言葉がうまく出てこない
ボクは『強欲の魔王』の気配を感じた。
ゆっくりと後ろを振り向くと、そこにあの時の女性が立っていた。
いや、違う。
勇者が連れてきていた少女だ。
彼女からは確かに『強欲の魔王』の気配がある。
「そ、ういう、こと、か……」
ボクは意識が遠退くのを感じながら、再び勇者に顔を向ける。
「勇者……キミは、何も……知らない」
「なんだと?」
「自分の……行き着く、先を……」
ボクは体制を崩して階段を転がり落ちる。
もう、体は動かない。
寒い。
でも、不思議と恐怖はない。
ソレどころか安堵すら覚えた。
ボヤける視界の中に眷属のドラゴンたちがいた。
キミたちだけだったな、最後までボクの側にいてくれたのは。
名前。
そうだ。
ボクはキミたちに名前をつけていたっけ。
いつからボクはキミたちを眷属なんて言い出したんだろう。
ボクは最後にキミたちの名前を────。




