第12話 『最終決戦II』
俺は一気に駆け出した。
それに合わせて賢者が俺に対して身体強化の魔術をかける。
体がいつもより軽くなり、力が溢れ出してくる。
これなら行ける。
渇望の魔王は玉座から動かず、気怠げに指を動かした。
すると、俺の進行方向にある空間が裂けた。
裂けた先には深淵が広がっており、間違って入ってしまえば生きては出てこれない、そんな気がした。
「──ッ」
深淵から巨大な顎が襲いかかり、間一髪のところで回避する。
堅そうな鱗に爬虫類のような瞳をしたモンスター。それが長い首を伸ばして、唸り声を上げている。
その正体はモンスターの中でも最上位にするドラゴンだ。
「よく避けたね。どうだい? ボクの眷属は。カッコいいだろ」
コイツ、ドラゴンを眷属にしているのか。
加えてこの空間の裂け目。
おそらくは空間転移魔法の類だろう。
渇望の魔王の思い通りの場所に空間の裂け目を作り、眷属であるドラゴンを召喚する。
厄介だな。
賢者が俺の隣まで上がってくる。
「僕がドラゴンを引きつけるから、ブレイブは本体を叩いて」
「分かった」
互いに頷き、俺たちは一斉に動き出す。
渇望の魔王は薄ら笑いを浮かべて指を動かす。
目の前の空間が裂け、ドラゴンが出現し顎を大きく開く。
喉の奥が不気味に赤らみ、その正体が俺に襲いかかった。
それは炎だ。
賢者が俺の前に出て、防壁魔法を展開。
骨すら焼き尽くしそうな威力の炎を抑える。
賢者にドラゴンを任せ、俺は渇望の魔王を肉薄する。
すぐそこまで迫っているというのに渇望の魔王は動くそぶりすら見せない。
なめやがって。
「勇者ならドラゴンくらいサクッと殺しなよ。それに……」
熱気。
「ボクが従えているドラゴンが一匹だけとは限らないよ?」
俺の横にいつの間にか出現したドラゴンが炎を吐き出す。
とっさに回避行動をとるが完全には横切ることは出来ずに左腕が炎に喰われる。
「ぐっ……」
左腕に激しい熱と痛みが走る。
肉が焦げた臭いが鼻をつく。
「ブレイブ!」
「問題ない」
強がってみるがかなりこたえている。
腕一本が使えなくなるのはかなり痛手だ。
もう、力押しはできないだろう。
そもそも、渇望の魔王は真正面から戦うようなタイプではない。
眷属に戦闘を任せ、自分は高みの見物を決め込む。
つまりだ、本体には大した戦闘能力はないはずだ。
俺は賢者のところまで下がる。
「火傷を治すよ」
「それは後でいい。それよりアイツのことだ」
「眷属がドラゴンはかなり厳しいね」
「だが、眷属を突破すれば本体はどうとでもなる」
「それには賛同するけど、どうやって突破する?」
「正面が無理なら、搦め手だ」
俺は賢者に耳打ちをして作戦を伝える。
聴き終えた賢者は、少し驚いたような顔をした。
「どうした?」
「いや、今まで正面突破しかしてこなかったブレイブがこんな作戦を考えるなんて」
「あの時とは違う。今の俺はただの酒浸りだ。頭を使わないと勝てん」
「なんか老いたね。まだ二十代だよね?」
「言っとけ」
俺と賢者は瞳に渇望の魔王を捉える。
「話し合いは済んだ? サァ、ボクを倒してみなよ」
「行くぞ!」
俺は走り出す。
賢者は錫杖を振り魔法を発動する。
空間が歪み、やがて俺が三人現れた。
渇望の魔王は呆れたように言う。
「ハァ、勇者ともあろう者が下らない幻術。撹乱にもならないよ」
渇望の魔王の指の動きに合わせて空間の裂け目が二つ現れ、ドラゴンが雄叫びをあげる。
縦横無尽に動く俺たちを追うようにドラゴンが鋭い牙を剥き出しにし、炎を吐き出す。
撹乱をしていたが、一人、二人とドラゴンにやられてしまい消えてしまう。
だが、最後の一人は渇望の魔王のすぐそこまで迫っていた。
「終わりだ!」
「甘いよ」
剣が渇望の魔王に届く瞬間、俺は下から出現したドラゴンに驚愕した。
「奥の手は隠しておくものだよ。ボクの眷属は三体いたのさ」
「なっ」
「サァ! 死ね勇者!!」
渇望の魔王の勝利を確信した叫びが玉座の間に響き渡る。




