第11話 『孤島の伽藍堂』
俺たちは『渇望の魔王』が根城としている孤島を目指し、船に乗っている。
『渇望の魔王』の居場所はエメリが持っている記憶の欠片のおかげで特定できた。
港に行き、漁師に事情を話すと使っていない船を快く貸してくれた。
どうやら『渇望の魔王』は海に自身の眷属を放ち、生態系を掻き乱しているらしい。
その結果、漁師は満足に漁を行えなくなった。
東の国において漁業は生命線。
目には見えてないが、東の国は確実に痩せ細ってきている。
こうして内情を聞くと、国王が躍起になっていた理由が分かる。
「おい、大丈夫か?」
俺は青い顔をしているエメリに声をかける。
いつも明るくはつらつとしている奴がぐったりしているのは調子が狂う。
「船って初めて乗ったから。こんなに揺れるんだね」
「吐きたくなったら吐け。海なら誰も文句は言わん」
「デリカシーって言葉知ってる? ……うっ」
口元を押さえて、エメリは船から顔を出す。
胃の中の物を吐き出しているエメリの背中を賢者がさする。
「モンスターは俺が片付ける。お前は気にせず吐いてろ」
船に乗ってから俺たちは幾度となくモンスターに襲われている。
海の中からいきなり襲って来るため、俺は四方八方を常に警戒していた。
すると、船の近くに影が迫って来る。
普通の魚にしては大き過ぎる。
影の正体が水面から飛び出してきた。
それは巨大な海蛇のような形をしたモンスターだ。
「………………」
俺は足に力を込めて、巨大な口を大きく開けてるモンスターに向かって跳躍する。
剣を鞘から引き抜き一閃。
船に着地すると同時に、モンスターの首が胴体から離れ、水しぶきをあげて水中に沈んでいく。
それから幾度もモンスターと戦い、俺たちはようやく孤島へとたどり着いた。
×××
不思議なことに道中での戦闘は皆無だった。
未だに船酔いに苦しんでいるエメリを担ぎながら、孤島の中心にそびえる禍々しい城へと向かった。
城の中に入るが物音一つしない。
「伽藍堂だな」
「眷属の一人も配置してないなんて。よほど自分の実力に自信があるのかな?」
「高を括っているなら好都合だ。行くぞ」
「うぅ……あんまり揺らさないで。頭痛い」
エメリの呻きに無言で頷いた俺と賢者は城を手当たり次第に散策していく。
やがて、玉座の間にたどり着いた。
「ヤァ、久しぶりの来客にボクはほんの少しだけ気持ちが動いているよ」
玉座にだらしなく座る男。
やる気のなさそうな顔。
線の細い体。
一見するとどこにでもいそうな青年だが、放たれている禍々しい魔力がそれを否定する。
全身の産毛が逆立つような感覚。
そこにいるだけで神経が研がれていくようだ。
武者震いもし始めた。
この感覚は数年ぶりだ。
そう、魔王と初めて対峙した時と同じだ。
自然と口元が緩む。
俺は自分の表情の変化に驚く。
喜びの感情など消えてしまったと思っていたが、多少は残っていたようだ。
俺は壁際にエメリを下ろす。
賢者はエメリを中心に防壁魔法を三重に展開させる。
賢者の防壁魔法の硬さは折り紙つきだ。
安心した俺は『渇望の魔王』に顔を向ける。
「お前が渇望の魔王だな。聞きたいことがある」
「魔王相手に質問、か。マァ、イイよ。ボクに何を聞きたいの?」
俺は瞳を閉じる。
まぶたの裏には魔王の姿が鮮明に浮かぶ。
ついに君のことを知れる。
どんな些細なことでもいい。
そのためにここまで来たんだ。
「女の魔王についてだ」
「女? あぁ、『強欲の魔王』ね。なんでそんなこと聞きたいの?」
「お前には関係ない」
渇望の魔王は不思議そうに俺を凝視する。
しばらくして、合点がいったようにやる気のない笑みを浮かべた。
「アァ……そうか、強欲の魔王を殺したんだ」
「…………」
「キミ勇者なんだ。そうかそうか」
瞬間、渇望の魔王から凄まじい殺気が吹き出す。
俺と賢者は武器を構える。
「ジャア、殺し合いだ」
「待て! 魔王についてまだ何も……」
「魔王と勇者が出会ったらヤルことは一つだけだよ」
「…………」
「キミ、ボクよりヤル気ないのはどうかと思うよ。しょうがないな」
渇望の魔王は自分のこめかみに指を当てる。
指を離すと煙のようなものがまとわりついていた。
それをビンにしまいフタを閉める。
ビンをゆらゆらと揺らして笑う。
「今、引き抜いたのは強欲の魔王に関する記憶。ボクを殺したら、これをキミにあげる」
「………………」
無意識に剣を握る力が強まる。
「やっとヤル気になったね。ジャア、始めようか。──最終決戦ってヤツを」




