無職、解釈されすぎる
条例は、一つのはずだった。
だが――
世界は、一つの解釈で満足できない。
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もやしの国(仮)。
朝。
俺は今日も、無職保護区域の柵の中にいた。
外に出られないまま、三日目だ。
「……なあ二号」
もやし二号が札を出す。
《外部状況:条例解釈、分裂》
「やっぱりか」
嫌な予感しかしなかった。
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最初に来たのは、王国代表。
柵の外、五十メートル手前で止まる。
「無職もやし神様。
我が国の解釈では、条例はこうなります」
紙を掲げる。
《王国版・無職保護条例 解釈注》
・無職は守る
・無職に判断は求めない
・ただし“象徴的発言”は歓迎する
「最後!!」
俺が叫ぶ。
「それ働けって意味だろ!!」
「いえ。象徴です」
「仕事だよそれ!!」
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次に神殿。
司祭が厳かに言う。
「神殿ではこう定めました」
《神殿版 解釈》
・無職は沈黙すべき存在
・言葉は世界を揺らす
・よって無職の発言は最小限に
「俺、もう三日しゃべってねえぞ!?」
「沈黙の深みが増しました」
「深めなくていい!!」
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次は軍部。
鎧の男が真顔で言う。
「軍の解釈は単純です」
《軍部版 解釈》
・無職は抑止力
・動かないことが最大の圧
・よって厳重警戒
「俺が何した」
「何もしないことです」
「評価すんな!!」
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さらに民間。
商人代表が元気よく言う。
「うちはこうです!」
《民間版 解釈》
・無職を見ると縁起がいい
・近づけないので遠くから拝む
・鍋の日は祝日
「勝手に祝日にするな!!」
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もやし三号が冷静にまとめる。
「現在、条例は五系統に分岐」
「増えすぎだろ」
「共通点は一つ」
「なんだ」
「全て“無職を守っているつもり”」
「その“つもり”が一番怖いんだよ!!」
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もやし四号が腕を組む。
「つまり、どれを殴ればいい?」
「全部殴るな!!」
もやし五号が地面に転がりながら。
「……無職……
宗派……
めんどい……」
「珍しく正しいな」
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問題は、ここからだった。
各国が、それぞれの解釈を正当化し始めたのだ。
「我が国の解釈こそ原文に忠実!」
「神殿版が精神的に正しい!」
「軍の運用が現実的だ!」
「祝日は大事だろ!」
遠くで口論が始まる。
俺は柵の中で頭を抱えた。
「条例一個で、よくそこまで揉められるな……」
もやし二号が札を出す。
《補足:揉める理由=無職が中心》
「俺が原因みたいに言うな!!」
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その日の午後。
新しい看板が立った。
《無職保護区域(王国解釈)》
《無職保護区域(神殿解釈)》
《無職保護区域(軍部解釈)》
「区域が増えた!!」
結果、柵が二重三重になった。
俺、完全に出られない。
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夕方。
使者が聞いてきた。
「無職様は、どの解釈がお望みですか?」
俺は即答した。
「全部やめろ」
全員が感動した。
「中立の宣言だ……」
「争いを止める一言……」
「止まってねえだろ!!」
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夜。
畑の方角を見ながら、俺は呟いた。
「……無職ってさ」
二号が札を出す。
《はい》
「働かないだけで、宗派できる職業なのか?」
《訂正:職業ではない》
「余計タチ悪いな」
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その頃、遠くの会議室。
魔王たちが報告を聞いていた。
「……条例が宗教化しているな」
「人間、暇なのか?」
ペイパ=ワークが震えながら言う。
「“無職原理主義派”という言葉が……
文書に……」
「書くな」
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世界は今日も、
無職を守るために、無職を分裂させていた。
平和だった。
ただし、解釈は戦争寸前だった。




