無職、何もしないと宣言する
その日は、やけに人が多かった。
もやしの国(仮)の広場。
壇があり、幕があり、なぜか鐘まである。
「……なんで式典みたいになってんだ」
俺は壇の前で立ち尽くしていた。
王国の使者、神殿の司祭、多種族代表、書記官。
全員、やたら真剣な顔。
もやし二号が札を出す。
《状況:期待過多》
「知ってる!!」
⸻
司会が高らかに宣言した。
「本日は――
無職もやし神様による
**“何もしない宣言”**を賜る場であります!」
「言ってねえ!! そんな名前で呼ぶな!!」
拍手が起きた。
「いや拍手すんな!!」
⸻
王国の代表が一歩前に出る。
「この宣言は、世界史における転換点です」
「まだ何も言ってない!!」
神殿の司祭が目を潤ませる。
「干渉しないという覚悟……
なんと崇高な……」
「覚悟じゃない!! 怠惰だ!!」
書記官がペンを走らせる。
《無職、干渉しない覚悟を示す》
「書くな!!」
⸻
司会が促す。
「では……お言葉を」
全視線が俺に集まる。
胃が痛い。
「……なあ」
静まり返る。
「俺、無職だぞ?」
どよめき。
「つまり――」
俺は続ける。
「何もしないし、
判断しないし、
責任も取らない」
会場がざわつく。
「だから――」
俺は深呼吸して言った。
「俺を当てにするな」
⸻
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「……深い……」
「なんという覚悟……」
「責任を放棄することで、世界を縛らない……」
「違う!! 逃げてるだけだ!!」
神殿側が勝手に祈り始める。
「祈るな!!」
⸻
もやし三号が分析する。
「整理しよう。
マスターは“決断しない”と宣言した」
「そうだ」
「つまり今後、世界は“自分で決断する必要がある”」
「勝手に前向きにするな!!」
王国代表が感動して言う。
「無職もやし神様は、
世界に自立を促された……!」
「そんな高尚じゃない!!」
⸻
もやし四号が拳を握る。
「じゃあ俺、殴っていい?」
「ダメだ!! 流れ読め!!」
もやし五号が寝転びながら。
「……無職……
何もしないって言って……
許される……」
「お前は真似するな!!」
⸻
もやし二号が札を出す。
《確認:マスターは今後も何もしない》
「そうだ!!」
《再確認:責任を負わない》
「そうだ!!」
《最終確認:逃げる可能性あり》
「ある!!」
二号は少し考えてから札を出した。
《結論:完全無職》
「胸張って言うな!!」
⸻
司会が震える声で締めに入る。
「本日をもって……
“無職もやし神様の不干渉宣言”は――」
鐘が鳴る。
「――正式な方針として記録されます!」
「記録するな!!」
拍手喝采。
誰一人、俺の話を聞いていない。
⸻
夜。
畑。
俺は地面に座り込んでいた。
「……最悪だ」
もやし二号が隣に立つ。
《評価:世界安定度、上昇》
「俺のメンタルは下がってる」
二号が札を出す。
《安心:マスターは無職》
「そこだけは変わらないな……」
⸻
遠く。
魔王たちはこの宣言を聞いて、同時に頷いた。
「……触らなくて正解だったな」
「完全に“巻き込まれる側”だ」
ペイパ=ワークが書類を閉じる。
「“無職宣言”……
これ以上、分析不要ですね……」
⸻
世界は今日も、
無職の一言を、勝手に重く受け取り、勝手に救われていた。
俺だけが、心底思っていた。
「……働かなくてよかった」




