もやし達、無職を理解しようとする(なお失敗)
事件は、平和な朝に起きた。
俺は畑の横で座り、何もしていなかった。
無職として、完璧な状態だ。
「……今日は静かだな」
その背後で、もやし二号が札を立てる。
《議題:無職とは何か》
「やめろ」
即答したが、もう遅かった。
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もやし三号が、いつもの冷静な声で言う。
「無職とは、役割を持たない存在だ」
「うん、そこまでは合ってる」
「だが役割を持たないことで、周囲に役割を発生させる」
「ちょっと待て」
リクツは続ける。
「つまり無職とは、“役割生成装置”だ」
「装置にするな!!」
もやし四号が腕を組む。
「役割がないなら、殴ってもいい?」
「よくねえよ!!」
「じゃあ無職は最強だな」
「どういう理屈だ!!」
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もやし五号は地面に寝転んだまま言う。
「……働かない……
動かない……
でも怒られない……」
少し間を置いて。
「……理想……」
「お前は無職を夢にするな」
もやし六号が元気よく手を挙げた。
「無職ってさ!
“いつでもどこにも属さない”ってことだよね!」
「ちょっと詩的にするな」
「だから無職は、自由の象徴!」
「勝手に格上げするな!!」
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ここで、もやし二号が札を出す。
《整理開始》
「やめろって言ってるだろ」
二号は淡々と続ける。
《仮説一:無職=何もしない》
「合ってる」
《仮説二:何もしない=干渉しない》
「まあ合ってる」
《仮説三:干渉しない=世界が勝手に動く》
「待て」
《結論:無職=世界駆動装置》
「戻れ!! 一個前に戻れ!!」
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リクツが補足する。
「つまりマスターは、
“決定しないことで最適解を生む存在”」
「それ説明会でも言われたやつだ!!」
ナグルが拳を握る。
「じゃあ無職を守れば世界は平和だな」
「そういう雑な守護対象にするな!!」
ダルがうとうとしながら言う。
「……無職……
寝てても許される……
最高……」
「お前はまず起きろ」
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議論は、どんどんズレていく。
カンが言う。
「無職ってさ、
“失敗しても怒られない勇者”みたいなものじゃない?」
「勇者を混ぜるな!!」
リクツが真顔で頷く。
「興味深い。
責任を背負わない英雄」
「それ一番やばい分類だろ!!」
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最終的に、もやし達は地面に円を書き始めた。
「何してんだ」
ナグルが答える。
「無職の定義を刻んでる」
「やめろ!! 石碑にするな!!」
二号が、最後の札を立てる。
《最終結論》
嫌な予感しかしない。
《無職とは、
役割を拒否し、
期待を背負わず、
結果だけ発生させる存在》
全員が頷いた。
俺だけが叫んだ。
「それもう災害だろ!!」
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その日の夕方。
もやしの国(仮)に、新しい張り紙が増えた。
《無職立入注意》
《無職に指示を求めないこと》
《無職は見守る対象です》
「誰が貼った!!」
二号が札を出す。
《住民》
「住民に広めるな!!」
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夜。
鍋。
俺は虚無の目で具材を混ぜていた。
「……なあ二号」
《はい》
「無職って、そんなに難しいか?」
二号は少し考えてから札を出す。
《難解:働いていないのに中心にいる》
「俺が一番混乱してるわ!!」
もやし達は満足そうに鍋を囲んでいた。
世界は今日も、
無職を理解しようとして、理解できないまま平和だった。




