無職、正式に説明される
説明会は、突然始まった。
場所は、もやしの国(仮)の広場。
なぜか壇上が組まれ、椅子が並び、看板まで立っている。
《無職もやし神 様 立場説明会》
「誰が決めた」
俺は壇の横で立ち尽くしていた。
多種族の代表たちが、やたら神妙な顔で座っている。
王国の使者、神殿の司祭、どこかの貴族、なぜか書記官が多い。
もやし二号が札を出す。
《説明対象:マスター》
「対象にすんな!!」
⸻
司会役の人間が咳払いをした。
「では本日は、“無職もやし神様の立場”について、
各国・各組織の共通認識を整理するために――」
「ちょっと待て」
俺は手を挙げた。
「俺、無職だぞ?」
「はい」
「職も地位も責任もないぞ?」
「承知しております」
「じゃあ説明することなくない?」
司会は真顔で答えた。
「それが問題なのです」
「俺が!?」
⸻
最初に発言したのは、王国の使者だった。
「我が国の見解では――
無職もやし神様は“権限を持たない最高影響力者”です」
「意味がわからない」
「命令は出さない。
だが、出した場合、世界が動く」
「出さないって言ってんだろ!!」
書記官が必死にメモを取っている。
《出さないが、出すと世界が動く》
「その書き方やめろ!!」
⸻
次に神殿の司祭。
「神殿としては、“信仰対象ではない信仰対象”と認識しております」
「矛盾してるだろ」
「祈ってはいけない。
だが敬意は払う。
供物は禁止。
ただし鍋は例外」
「鍋を神聖視するな!!」
もやし五号が寝転んだまま言う。
「……鍋……正義……」
「お前も黙れ!!」
⸻
エルフ代表が慎重に言う。
「長命種としての立場から言えば……
あなたは“関わらないことが最善の存在”です」
「それ、説明会の意味ある?」
ドワーフが腕を組む。
「技術的に言えば、
あんたは“操作しないことで最適解を出す装置”だ」
「装置扱いすんな!!」
⸻
もやし三号が冷静に分析する。
「整理しよう。
マスターは意思を持つ。
だが意思を発動しない。
結果として、周囲が勝手に最適化される」
「やめろ、理屈っぽく説明するな」
もやし四号が聞く。
「つまり殴らなくても勝つ?」
「殴る前提で考えるな!!」
⸻
ここで、神殿と王国が揉め始めた。
「神ではない!」
「だが影響力が!」
「権限がない!」
「責任もない!」
「無職だ!」
全員が同時に俺を見る。
「「「だから危険だ!!!」」」
「無職が危険扱いされる世界おかしいだろ!!」
⸻
司会が慌ててまとめに入る。
「えー……結論として……
無職もやし神様の立場は――」
板書される。
《立場:何もしないが、何もしないことで全てに影響する》
「最悪の定義だな!!」
もやし二号が札を出す。
《補足:マスターは無職》
「補足するな!! そこは揺るがない!!」
⸻
最後に、質問タイム。
若い官僚が恐る恐る聞いた。
「も、もし……
無職もやし神様が“何かを決めたら”……?」
場が静まる。
俺は即答した。
「決めない」
即答すぎて、全員が戸惑う。
「決めないんですか……?」
「決めない」
「では、もし“決めざるを得ない状況”になったら……?」
俺は少し考えてから言った。
「……逃げる」
会場がどよめいた。
「逃げる……!」
「責任回避……!」
「無職の鑑……!」
「褒めてねえだろそれ!!」
⸻
説明会は、結論を出せないまま終わった。
最後に貼り出された紙には、こう書かれていた。
《無職もやし神 行動指針》
・基本、何もしない
・判断を求めない
・追い詰めない
・鍋は共有する
「最後だけ具体的だな!!」
⸻
夜。
畑。
俺は深いため息をついた。
「……説明会って、疲れるな」
もやし二号が札を出す。
《結論:無職は説明できない》
「最初からそう言え!!」
遠くで、誰かがまた会議を始めている気配がした。
俺は聞こえないふりをして、鍋を火にかけた。
「……無職でよかった」
世界は今日も、
無職を理解できないまま、平和を保っていた。




