神殿、もやしを神にしたがる(なお誰も頼んでない)
問題は、神殿だった。
もやしの国(仮)の門の前に、見慣れない一団が立っていた。
白いローブ。金の装飾。無駄に長い巻物。
俺は鍋を持ったまま言った。
「……帰れ」
「まだ何も言ってません!」
即座に反論してきたのは、神殿の代表らしき神官だった。
目がキラキラしている。嫌な予感しかしない。
「我々は、ただ“確認”を――」
「確認って言葉を使うやつは、大体もう決めてるだろ」
神官が咳払いをした。
「近頃、世界各地で“白い存在”が複数確認されまして」
「確認するな!!」
背後で、もやし三号が腕を組む。
「合理的に考えれば、確認は必須だ」
「黙れ理屈!!」
神官たちの視線が、一斉に畑へ向いた。
もやし二号。
もやし三号。
もやし四号。
もやし五号。
もやし六号。
五体、立っている。
一体、寝ている。
一体、拳を鳴らしている。
神官の一人が、震える声で言った。
「……五柱……?」
「柱って言うな!!」
別の神官が巻物を広げる。
「現在の神格リストに照らし合わせますと――」
「照らし合わせるな!!」
俺のツッコミを無視して、神官は読み上げた。
「“世界に影響を与える存在”
“信仰が発生している存在”
“奇跡を起こす存在”」
もやし四号が聞いた。
「で、殴っていい?」
「殴るな!!」
神官は続けた。
「以上の条件を満たすため、暫定的に――」
俺は全力で遮った。
「やめろ!! 暫定が一番危ない!!」
神官が、申し訳なさそうに言う。
「“神”とは呼びません。“準神格”です」
「余計ややこしいわ!!」
もやし五号が寝転びながら言った。
「……めんどい……神……」
神官たちが一斉に跪いた。
「今、神託が――!」
「違う!! ただの寝言だ!!」
俺は頭を抱えた。
「聞け!! こいつらは神じゃない!!
俺が育てた……野菜だ!!」
神官が感動した顔で言った。
「やはり“育てし者”……!」
「そうじゃねえ!!」
もやし六号が急に言った。
「たぶん……ここ、書類多くなるよ!」
「なるな!!」
神官が震える手で書き始める。
「“神格候補一号:白き管理者”」
「“神格候補二号:理を司る芽”」
「勝手に番号振るな!!」
もやし二号が、静かに札を出した。
《訂正:神ではない》
神官たちが一斉に息を呑む。
「神自ら否定を……!」
「だから違うって言ってるだろ!!」
もやし三号が冷静に言った。
「合理的に考えれば、神格化は非効率だ。管理コストが増える」
神官がメモを取る。
「“神は管理コストを気にする”……」
「書くな!!」
もやし四号が前に出る。
「で、殴っていい?」
もやし二号が、札を出す。
《却下》
四号がしょんぼりした。
俺は限界だった。
「もういい!!
神にしたいなら勝手にしろ!!
俺は無職だ!!」
神官が深く頷いた。
「無職……それもまた神秘……」
「聞くな!! 解釈するな!!」
⸻
数時間後。
神殿側は、疲れ切って引き上げていった。
持ってきた巻物は、倍になっていた。
畑には静けさが戻る。
俺は鍋を見下ろして言った。
「……なあ二号」
二号が札を出す。
《記録:神殿、混乱》
「成功か?」
《評価:被害軽微》
「基準おかしいだろ……」
遠くで、神官の悲鳴が聞こえた。
「“準神格”の欄が足りません!!」
俺は空を仰いだ。
「……平和って、なんだっけ」
もやし二号は、黙って立っていた。
世界は今日も、
勝手に意味を増やしていた。




