魔王、もやしの数を数え始める
問題は、数だった。
もやしの国(仮)の広場で、俺は腕を組んで立っていた。
目の前には――
もやし二号。
もやし三号。
もやし四号。
もやし五号。
もやし六号。
全員、人型。
全員、強い。
全員、言うことを聞かない。
「……増えてるよな」
誰に言うでもなく呟いた。
多種族たちが、気まずそうに視線を逸らす。
「い、いえ……その……」
「数え間違いかと……」
「間違えるな!! 五体だ!!」
もやし三号が腕を組んで言う。
「合理的に考えれば、五体は“少数精鋭”の範囲だ」
「その理屈やめろ!!」
もやし四号が拳を鳴らす。
「で、殴っていい?」
「いいわけないだろ!!」
もやし五号は地面に座り込んでいる。
「……数えるの……めんどい……」
「お前は数えられる側だ!!」
もやし六号が急に言った。
「たぶん……六になるよ!」
「なるな!!」
俺が叫んだ瞬間。
もやし二号が、無言で札を出した。
《確認:個体数五》
「確認すんな!!」
その場にいた全員が、なぜか納得した。
そして――
問題は、外でも起きていた。
⸻
どこでもない場所。
魔王たちは、また集まっていた。
今回は全員、最初から嫌な顔をしている。
「……で」
灼界魔王イグナ=ヴァルカが腕を組む。
「“増えた”んだな」
深海魔王ネレウス=アビスが頷いた。
「確認された。二号を含めて五体」
死界魔王モル=ネクロスが、胃を押さえながら呟く。
「……やっぱり……増えると思った……」
夢幻魔王ミルフィ=ノクスが楽しそうに言う。
「名前ついてる?」
オルド=ギアが即答した。
「通称確認済み。
三号:リクツ
四号:ナグル
五号:ダル
六号:カン」
ペイパ=ワークが、紙束を抱えたまま震えている。
「す、すみません……
番号と通称が混在していて……
議事録が……」
「頑張れ」
全員が一斉に言った。
ペイパ=ワークが泣きそうになる。
「しかも……技名まで……」
「技?」
イグナが眉をひそめる。
オルド=ギアが淡々と読み上げた。
「三号:最適解演算」
「四号:前線突破」
「五号:怠惰結界」
「六号:直感回避」
沈黙。
ミルフィが、口笛を吹いた。
「うわ、役割分担できてる」
「できてない」
モル=ネクロスが即否定する。
「……誰も……命令……聞かない……」
ネレウスが静かに言った。
「だが管理はされている」
全員の視線が、一点に集まる。
「もやし二号」
イグナが唸る。
「つまりだ……
“王”はいないが……
“管理者”がいる」
「最悪の形だね」
ミルフィが笑う。
「支配も命令もないのに、統制だけ取れてる」
ペイパ=ワークが必死に書く。
「“個体数五”“管理個体一”“統制あり”“命令なし”……
……説明、無理です……」
「説明しなくていい」
ネレウスが言った。
「数えられるだけで十分だ」
「数える意味、あります?」
ペイパ=ワークが弱々しく聞く。
オルド=ギアが即答する。
「意味はある。
――だが、意味がなくなる兆候も確認された」
「どういうことだ」
イグナが聞く。
「増える前提になっている」
沈黙。
モル=ネクロスが、ぽつり。
「……数えるの……
やめたほうが……いいかも……」
ミルフィが笑った。
「でもやめたら、もっと増えるよ?」
ペイパ=ワークが悲鳴を上げた。
「やめても地獄!!
続けても地獄!!」
⸻
その頃。
もやしの国(仮)。
俺は畑で、頭を抱えていた。
「……なあ二号」
二号が札を出す。
《待機》
「増やすなよ?」
《了解》
後ろで、もやし六号が言った。
「たぶん……増えるよ!」
「黙れ!!」
遠くで、世界がまた一つ、数えにくくなった気がした。




