無職、もやしを増やしてはいけない(戒め
朝。
俺は畑の前で腕を組んでいた。
「……そろそろ、もやしの品種改良でもするか」
周囲が、ざわっとした。
エルフが目を輝かせ、
ドワーフが工具を持ち出し、
獣人がなぜか腕まくりを始め、
スライムがぷるぷる震え始める。
「やめろ」
全員が止まった。
「俺は“やるか”って言っただけだ。手伝えとは言ってない」
「ですが無職様!」
「我らの知恵を!」
「我らの力を!」
「聞け!! 俺は無職だぞ!!」
威張るなという話だが、ここでは威張らないと止まらない。
もやし二号が、いつもの位置で立っている。
無言。無表情。圧だけが「嫌な予感」を出している。
俺はため息をついた。
「……いいか。今回は“普通の”品種改良だ。
栄養価がちょっと上がるくらいでいい」
その瞬間、誰かが言った。
「多種族の叡智を全部混ぜたら、もっと良くなるのでは?」
「誰だ今言ったの!!」
遅かった。
魔法陣が勝手に描かれ、
発酵槽が増え、
納豆菌が舞い、
酒樽が転がり、
祈りが混ざり、
なぜか武器まで供えられた。
「おい!! 品種改良だぞ!! 儀式じゃない!!」
光った。
嫌な感じに。
畑の中央が割れ、
白い影が――一体、二体、三体、四体。
俺は頭を抱えた。
「……あー……はい。失敗」
出てきたのは、もやしだった。
人型。白い。だが――
全員、顔つきが違う。
一体目。
腕を組み、俺を見下ろす。
「合理的に考えれば、君の命令を聞く必要性は低い」
「理屈っぽい!!」
二体目。
拳を鳴らし、周囲を見回す。
「敵は? 戦場は? 殴っていいやつは?」
「戦闘狂!!」
三体目。
地面に座り込み、動かない。
「……めんどい……世界……」
「無気力!!」
四体目。
キョロキョロしながら、急に走り出す。
「なんかわかった!! こっち!!」
「勘だけで動くな!!」
俺は叫んだ。
「違う!! お前らは違う!!
もやし二号みたいに、こう……静かで……」
四体、同時に首を傾げた。
「もやし二号?」
その名前を聞いた瞬間。
――圧。
背後から、無言の圧。
もやし二号が、札を出す。
《状況:異常増殖》
次の札。
《評価:管理対象》
俺は慌てた。
「待て!! 殴るな!!
こいつらは失敗作だけど、悪意は――」
四体が、勝手に動いた。
理屈屋は空へ。
戦闘狂は前線方向へ。
無気力は転がりながらどこかへ。
勘のやつは全力疾走。
「おい!! 帰ってこい!!」
誰も聞かない。
俺は膝をついた。
「……やっぱり……無職が増やしちゃいけない……」
次の瞬間。
バゴォン。
空から落ちてきたのは、理屈屋。
もやし二号が札を出す。
《指示:帰還》
ドゴォン。
戦闘狂が吹き飛んで戻る。
《指示:帰還》
ゴン。
無気力が転がって戻る。
《指示:帰還》
最後に、勘のやつ。
走ってきたところを、正面から。
《指示:帰還》
ドスッ。
四体、地面に並べられた。
全員、静かになった。
理屈屋がぽつり。
「……暴力は、非合理……」
戦闘狂が目を輝かせる。
「……あれと、また戦いたい……」
無気力。
「……動く理由、できた……」
勘のやつ。
「やっぱここだった!!」
「意味わかんねえよ!!」
俺はもやし二号に叫ぶ。
「だから殴るなって言っただろ!!」
二号が札を出す。
《反論:殴らないと戻らない》
「正論みたいに言うな!!」
周囲の多種族が、静かに頷いていた。
「管理……すごい……」
「やはり二号様……」
「崇めるな!!」
俺は頭を抱えた。
「……もういい。
お前ら、まとめて――」
言いかけて、止まる。
命令しない。
俺は無職だ。
もやし二号が、最後の札を出した。
《暫定結論:管理可能》
俺は天を仰いだ。
「……増えてるじゃねえか……」
畑には、
もやし二号。
癖の強い四体。
そして、無職が一人。
世界は今日も、
順調におかしくなっていた。




