普通のやり方(各国版)
朝。
俺は鍋に湯を張っていた。
「……なんか嫌な予感するな」
理由は簡単だ。
今日は静かすぎる。
もやし二号は、いつも通り俺の横に立っている。
白い。
無表情。
待機。
完璧な普通。
――なのに。
「確認が入りました」
背後から、やけに丁寧な声。
振り返ると、各国の使者が立っていた。
昨日より数は少ない。
その代わり、目が真剣だ。
「何の確認だよ」
男は胸を張った。
「“普通”です」
「やめろ」
別の使者が書類を広げる。
「先日の観測により判明しました。
無職もやし神殿下の“普通の日”が、世界安定に寄与している可能性」
「可能性で動くな」
「そこで各国は協議しました」
「またかよ」
「“普通を再現すれば安全”という結論に至りました」
「至るな」
嫌な沈黙。
俺は恐る恐る聞いた。
「……で、何をした」
男が誇らしげに言った。
「各国版“普通の日マニュアル”を作成しました」
「やめろって言ってるだろ!!」
⸻
最初に報告されたのは、神殿国家だった。
「第一工程:鍋」
「工程言うな」
「毎朝、聖職者が湯を張り、白き芽(※もやし)を投入」
「食え」
「これは“始まりの儀”として――」
「ただの朝飯だ!!」
次、武の国。
「第二工程:洗濯」
「なんで知ってんだよ」
「戦士全員が武具を洗い、己を清める」
「それはまあ悪くないけど理由が違う」
「これを“戦わぬ覚悟の型”と呼称」
「呼称するな」
次、交易国家。
「第三工程:沈黙」
嫌な単語が出た。
「正午より一時間、全商人が取引を停止し、何もしない」
「経済死ぬだろ」
「“無為の時間が均衡を生む”との解釈です」
「誰がそんなこと言った!!」
もやし二号が札を出す。
《記録:言っていない》
「だろうな!!」
⸻
俺は頭を抱えた。
「お前らさ……
“普通”って、真似するもんじゃないんだぞ」
使者たちは困惑した顔をする。
「しかし……再現性が……」
「再現できるかどうか考える時点で普通じゃない!!」
別の男が言った。
「では第四工程、“何もしない時間”についてですが――」
「やめろ!!」
「無職もやし神殿下が座っていた時間を正確に計測し――」
「監視すんな!!」
「各国で同時に座る」
「世界中が座るな!!」
広場の端で、誰かが呟く。
「……座るのが遅れた国、危ないのでは……」
「競争にするな!!」
⸻
俺は鍋の蓋を閉めた。
「いいか!
俺の一日はな、
無職が暇だから成立してるんだ!」
静寂。
使者たちが、ゆっくり頷く。
「……無職……」
「……暇……」
「……再現困難……」
「やっと分かったか」
代表が、深々と頭を下げた。
「結論が出ました」
「嫌な予感しかしない」
「“完全再現は不可能”」
「当たり前だ」
「よって――」
間。
「“各国は、できる範囲で普通を目指す”」
「やめろォ!!」
⸻
使者たちは帰っていった。
広場に、いつもの静けさ。
俺は鍋をかき混ぜながら、ため息をつく。
「なあ二号」
「……?」
「俺の一日、他人がやると最悪だな」
二号は少し考えて、札。
《結論:普通は個人依存》
「その通りだよ……」
鍋が煮える。
もやしがうまい。
その頃、世界各地では――
なぜか全員が同時に座っていた。
理由は誰にも分からない。
だが一つだけ、確かなことがあった。
普通を真似しようとした瞬間、
それはもう普通ではなかった。
「……明日は何も起きないといいな」
二号が頷く。
《希望:同様》
希望は、だいたい裏切られる。




