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転生したのに女神がもやし栽培キットしかくれなかったので、無職即追放されましたが、育ててたら貴重品でした  作者: Y.K


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今日は普通の日です

朝。


 俺は目を覚ました。


 空は青い。

 鳥が鳴いている。

 世界は――たぶん、まだ壊れてない。


「……よし」


 俺は決意した。


「今日は、普通の日にする」


 特別なことはしない。

 威張らない。

 喋らない。

 判断しない。


 無職として、正しい一日を過ごす。


 まずは鍋。


 いつも通り、鍋に湯を張る。

 火をつける。

 もやしを入れる。


「……普通だ」


 もやし二号は、いつも通り俺の横に立っている。


 白い。

 無表情。

 待機中。


 完璧な日常。


 ――のはずだった。


「……動きがありませんね」


 小声がした。


「今日は静かすぎる」

「嵐の前……?」


「誰だよ嵐呼んだの」


 俺は振り返らずに言った。


「聞こえてるぞ」


 ざわっと空気が引き締まる。


「……聞こえている……」

「つまり、意識はこちらに……」


「違う!!」


 俺は叫びそうになるのをこらえた。


 今日は普通の日だ。


 深呼吸して、次。


 洗濯。


 布を水に浸して、絞る。


「……洗濯だ」


 その瞬間。


「浄化……」

「清めの工程……」

「戦闘前の身支度……?」


「ただの洗濯だ!!」


 もやし二号が札を出す。


《確認:布が汚れていた》


「追撃するな!!」


 俺は干す。


 布が風に揺れる。


 それだけ。


「……風向き……」

「干渉開始の兆候……」


「やめろ!! 全部やめろ!!」


 次。


 掃除。


 地面を掃く。

 葉っぱを集める。


「……掃除だ」


「陣地整理……」

「不要物の排除……」


「掃除って言ってるだろ!!」


 俺は箒を置いた。


「いいか! 今日は何も起きない日だ!」


 静寂。


 全員が息を止めている。


「……“何も起きない”……」

「……宣言……」


「宣言じゃない!! 独り言だ!!」


 俺は頭を抱えた。


「もうやだ……」


 そのとき、もやし二号が一歩、日陰に移動した。


 ただそれだけ。


 ――空気が凍る。


「動いた……」

「位置変更……」

「態勢調整……!」


「日陰に行っただけだ!!」


 二号が札を出す。


《理由:暑い》


「当たり前だろ!!」


 昼。


 俺は鍋を二杯目にした。


 座って食べる。


「……普通だ」


「食事……」

「栄養補給……」

「持久戦……?」


「違う!! 腹減っただけだ!!」


 俺はもう、疲れていた。


「なあ二号」


「……?」


「普通って、難しいな」


 二号は少し考えてから、札。


《結論:世界が普通ではない》


「それ言っちゃうか……」


 午後。


 俺は何もしなかった。


 座る。

 ぼーっとする。

 空を見る。


「……何もしてない」


「……待機……」

「……沈黙……」

「……意思表示……」


「考えすぎだ!!」


 夕方。


 日が傾く。


 何も起きなかった。


 戦争もない。

 神託もない。

 魔王も来ない。


 ただ――


「……今日は、何もなかったな」


 誰かが言った。


 別の誰かが頷く。


「……それが一番、怖い……」


「怖がるな!!」


 俺は立ち上がった。


「いいか! 今日は普通の日だった! 以上!」


 もやし二号が札を出す。


《記録:普通の日》


「記録するな!!」


 夜。


 火を落とす。


 鍋を片付ける。


 世界は、ようやく静かになった。


 俺は空を見上げて、呟く。


「……明日も普通で頼む」


 二号が頷いた。


《希望:同様》


 それが叶わないのを、

 俺たちはもう、うっすら知っていた。

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