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夏の始まりは青春の終わり

「七番、セカンド、平石君」


ウグイス嬢の澄んだ声が、球場いっぱいに響き渡った。

7月24日 日曜日。高校野球夏季東京予選大会準決勝。観月雄大の所属する東都学院高校と帝成高校の一戦は、一対三と帝成がリードしたまま、ついに最終回ツーアウトを迎えていた。


東都学院のベンチには、すでに涙を流している選手もいれば、体を前のめりにして必死に声援を送る選手の姿もある。その中で雄大は、ベンチの最前列に腰を下ろし、ただ静かにグラウンドを見つめていた。


一球目は高めに大きく外れ、ボール。

二球目、外角低めの変化球に平石のバットが空を切る。カウントはワンボール、ワンストライク。


そして三球目。


ゴーン——。


鈍い金属音とともに、力のない打球がふわりと宙に舞い上がった。セカンドの選手が声をかけながら落下地点へと入り、難なくその打球を処理する。


その瞬間、雄大は視線を落とした。

もう一度スコアボードを見上げ、そこに表示された数字を見て、敗北を改めて噛みしめる。


——終わった。

俺たちの高校野球が、終わってしまった。


一年前の夏頃から、自分たちの代になって以降、練習中に何度も想像してきた光景だった。だが、いざ現実としてその瞬間を迎えると、全身から力が抜け落ちるような、不思議な感覚に包まれた。


「ゲーム!」


主審の声がグラウンドに響くと同時に、スタンドから割れんばかりの拍手が湧き起こった。


試合後、スタジアムを出ると、父兄や吹奏楽部、チアリーディング部、さらには他部活の生徒たちが待ち構えており、再び大きな拍手で迎えられた。主将の猶原拓巳を先頭に、挨拶が始まる。


「本日は、応援本当にありがとうございました。最後はベスト4という結果に終わり、目標だった甲子園出場には届きませんでしたが、自分たちの夢は後輩たちに託したいと思います。そして、この二年半で得た経験を活かして、次のステージでもそれぞれ頑張っていきます」


涙を浮かべながら、拓巳はそう言い切った。

最後に全員で深く頭を下げ、挨拶を終える。


帰りのバスに乗り込み、あたりを見渡すと、先ほどまで泣いていたチームメイトたちの表情は、どこかやり切ったものへと変わっていた。


家に帰ると、雄大はYouTubeにすでにアップされていた今日の試合のハイライトを再生した。今大会、雄大は全試合で四番を任され、打率、打点ともにチームトップの成績を残していた。


それでも、胸の奥に残るモヤモヤは消えない。


——やっぱり、不完全燃焼だ。

このままじゃ、終われない。


そう心に決めた瞬間、雄大の足は自然とリビングにいる両親のもとへ向かっていた。


「父さん、母さん。俺、このままじゃ野球終われない」


覚悟をにじませた表情で、そう言い放つ。

両親は一度顔を見合わせ、少し間を置いてから言った。


「なんとなく、そう言い出すんじゃないかと思ってたよ」


はにかむようなその言葉に、雄大の胸は一気に熱くなる。


「見ててよ! 大学ではもっとすごい選手になって、日本一になるから!」


そう言って、雄大は笑い返した。


一晩明けた翌朝。

雄大は昨日決めたことを伝えるため、監督にメッセージを送った。


『観月雄大です。進路のことについて、監督とお話ししたいことがあります。お時間をいただけないでしょうか』


送信する前に何度も文面を確認し、雄大はようやく送信ボタンを押した。


雄大が所属していた野球部の監督は、東京でも有名な強豪大学でレギュラーとして活躍していた人物だ。大学野球について相談するには、これ以上ない相手だった。


ただ、この日は祝日だったため、なかなか返信は来ない。

監督からの返事が届いたのは、時刻が19時を回った頃だった。


さらに十数分後、雄大は通知に気づき、スマホを開く。


「わかった。なら、御両親とも話しておいたほうがいい。来校できそうな日時を聞いておいて」


その内容を確認し、雄大は少ししてから、


『承知しました』


とだけ返信した。


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