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第4話 最後の愛(ラスターモ)

 時は過ぎていった。


 結論から言うと彼と私は結ばれた。


 あの後、お互い本が好きで、小説を書くのが趣味と分かってから仕事以外でも話すようになり、気がついたら一緒になっていた。

 お互い物は書いていたけれど、ペンネームは明かさなかったわ。

 だって、小説は作者自身の心を削るから、読まれたら心の内を知られてしまいそうで・・・なんて、お互い恥ずかしかっただけのでしょうね。


 黄色いレインコートに水色の長靴の男の子。

 この子は私の息子。

 休日だから、お買い物して二人で家に帰る途中なの。

 小さい手。あの人そっくり顔。やっぱり親子だわ。

 私の大好きな金木犀が短いオンステージの時期のようだ。

 ほんの少しの優しい香りのステージね。

 街のあちこちで出会う。

 冬も近いのかもね。

 息子がピョンピョンと水たまりを飛び越える。

 その度に私はその手を軽く引き上げてあげる。

 小さくて細い指だね。 

 お母さんの大切な大切な小さい右手。


 その大切な小さい左手をあなたが握っていてくれれば・・・・


「お母さん、お父さんってどんな人だったの?」


 そう、彼はもう私の隣にはいないわ。

 雨の日に出会った男の子。

 彼も私の元を去った。


 私にはどうにもできなかった。たった一日の出来事。

 車での交通事故だった。


「お父さんはね・・・・」

 この子は私が育て・・・生かす。



 時は過ぎていった。

 息子は成人できた。

 

 そして、ある日女の子を連れてきた。

 その年の初雪のちらつく午後のことだった。

 私は彼女に会った時、心に何かちらつくものがあったの。

 

 彼女は悪い娘ではなかった。

 ただ、何かと弱い娘のようだった。

 でも、それは彼女を否定するべき理由ではないと分かっている。

 ただ、直感的に不安だったの。


 白黒はっきりさせたい性格の私。

 自分が正しいと思えばハッキリと言ってしまう私。

 なかなか謝ったりできない、素直でない私。

 多分、この子とは真逆な私。

 

 それが、思い込みであってほしい。

 だって、私が育てた息子(この子)が選んだのだもの。

 でも、よく考えて欲しいと本音のようなものが心の奥でちらちらと彼女を見ていた気がする。


 しかし、その次の言葉で引き返せなくなった。


ーお腹に赤ちゃんがいる。俺はこの()を嫁にもらいに行くー


 私の心臓は一瞬(こお)った。

 なぜ()てついたかって?


 息子(あの子)()よ。


 もう何十年も昔、少女の頃、この()を見た。

 覚悟が座っていた。

 雪がちらつく雪原をただ歩くあの(ひとみ)


「母さん」

  息子(あの子)の言葉はそれだけだった。

  私はどう言えばいい?

 あぁどうしよう。


 小さな心臓は動き始めた。もう待ったなし。

 人の命は、他人が触っちゃいけない。

 私はそう思う。


 息子(あなた)貴方(あなた)はそう決めたのね。

 それを選んだのね。

 それを望むのね。


 「相手のご両親に頭を下げに行く。」

 私は立ち上がった。

 片親(ひとり)だって、二人分の役割(しごと)をする。

 ねぇ・・・あなた。



 時は過ぎて行った。

 孫も大学生になる頃らしい。

 あら、気づかれたかしら。

 なる頃らしい・・・っておかしいわよね。


 実はこの3年、息子達家族に会っていない。

 原因は彼らが転勤族で遠くに住んでいることもあるのだけれど、決定的なミスを私が犯したからだと思う。


  確かにいろいろとあったよ。

 常に息子は私からお嫁さんを守るように防衛線を張るように話をする。

 私は女手(おんなで)ひとつで子どもを育ててきたわ。

 守られていて何ができるという想いが底の方にある。


 ・・・でも、本当は淋しかったから?

 生きてきた証をとられたから?

 あの人の唯一の忘れ形見だから?


 気の強い私は何と戦っていたの?


 そして、その果てに私は言ってしまったの。


ーあなた達の結婚は間違いだったー


 その時、息子(あの子)の瞳の色が凍ったわ。


 息子(あの子)はこう言い放った。

 それならば、もし母さんの人生に俺という存在がいくらかを占めるのならば、その部分は全て間違いだったのか?と。


 もちろん違うと言ったわ。


 だけど息子(あの子)は、

 家族を含めて、俺という存在だと。


 息子(あの子)嫁子(かぞく)を守る覚悟が育ったのね。

 親としての決意とともに。


 手放す時か・・・遅くなったな。

 仕方ないか・・・あの人がいなくなってから必死だったし。

 いろんな淋しさ、怖さ、不安を息子とともに乗り切ったつもりだった。

 あぁ、でもすがっていたのは私だったのかも。

 こだわりを手放す時なんだろうな。


 仕方ないわね。男の子を産んだんだもの。


 いつか、強く大きくなったら羽が生えて飛んでいく。

 

 こちらから、手放す。それは親の最後の愛(ラストアモーレ)かもしれない。



 私は言い返さなかった。

 息子(むすこ)にはそれが誤算のようだった。

 話は途切れた。

 息子(あの子)は、気の強い私が必ず言い返してくる、そう思っていたみたい。

 さすが・・・私の子。意固地(いこじ)にも(ほど)がある。

 それが、3年の時間。

 でもね、息子(あなた)、もうひとつ誤算があったのよ。

 言い返す元気がなかったのよ。ホントは。

 私も年を取ったなぁ。


 あの時、病気が見つかっていた。


 そう・・長くはない。


 自分の始末は自分でつける・・・

 息子に迷惑はかけない・・・


 猫と一緒よ。

 ふいにいなくなるの・・・

 私と息子(あなた)はそれでいい。


 これは、私の人生。好きにさせて・・・

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