第4話 雨の日に出会った男の子
真夏の雨あがりだ。
「お客様、困ります。」
私は帰り道に、年配の男性に絡まれていた。
この人、昼間、支店のサービスが悪いと本店になだれ込んで来た人。
こんな人は時々いる。
こちらの話を聞いてくれない人だ。
でも、違う。
今は勤務外。帰り道。
弱ったな。顔は覚えられてるだろうから、できるだけ穏便に済ませたいのだけど・・・
目的が違うんだろうな・・・
嫌な汗が出る。
仕方ないなぁ・・・
ちょっと怖いケド・・・強く・・出てみる?
私が言い返そうとするといきなり左手首を掴まれた。
「痛っ」
足元の水たまりが私のヒールで水を跳ねる。
ー怖いー
「ちょっと、みっともないですよ!」
私と男の間にサラリと入り込んだ影があった。
力強くスラリとした背中。
クルリと反転したその長い手は私の左手を掴んだ男の手を絡めとっていた。
男は勢い水たまりに尻もちをつく。
よろけた私を引き寄せるたくましい腕。
彼の前髪から頬に雨粒が伝う。
「痛くありませんでしたか?」
その言葉だけを残して彼は男に向き直る。
「オマエ、一緒の店のモンか?こんなことして良いいと思ってんのか!言うぞ。社長呼んで来い!呼ぶぞ!訴えるぞ!」
・・・いや、そんなんまともに取り合うことはないって・・・
アタマのネジ飛んでるなぁ・・・
男の腕が彼の襟首をつかむ。
ワイシャツのボタンが弾けて姿を消した。
その時だった。
彼の一言。
空気が凍えた。
「かんけぇぇねぇんだよ!」
男は固まっていた。真夏に凍ったように・・・。
「歩けますか?」
私がうなずくと、彼は男に掴まれなかった右手をとって颯爽と歩き出す。
早くもなく遅くもなく、私を危険から遠ざける。
充分に遠ざかり、彼は急に恥ずかしそうに手を離した。
「ごめんなさい。手を握っちゃったりして。」
まだ濡れている前髪が揺れる顔は先ほどとは違って少年のようにあどけない。
「いいえ、いいんです。ありがとうございました。」
「ちょうど、本店に届け物があったものですから。」
へ?本店?届け物?
あぁ?その声。
「支店の新人君?」
「いつも助けてもらってて、感謝してます。こんなことでも、お役に立てたなら良かったんですけど・・・。」
へぇ、こんな顔してたんだ。
キレイな顔・・・ん?どこかで見たことあるような。
さっきまではカッコ良かったのにな・・・急にかわいく見えてきた。
あぁあ、私の悪いクセだ。すぐに先輩風を吹かしたくなる。
「ねえ、イベントも一区切りしたし飲みに行きません?」
おっその顔、その顔。
何?いきなりで困ってるの?
「何か予定でもあったの?」
彼は、なんだかモジモジしていたと思ったら
「ちょっと、この頃忙しくてやらなきゃならないこと放っていて・・・」
「家事とか?掃除洗濯?」
「まぁそれもなんですけど・・・」
「それもだけど?」
えー?なんだ?かわいいな。
「趣味をちょっと・・・」
趣味ね。ふーん。
このお姉さんの誘いを断るか・・・
ふふふ、私、意地悪かな。初対面なのにね。
半年以上、電話で仕事のお世話はしてきたけど・・・・
あれ、いけない。彼、よく見ると雨によく濡れてるわ。
ハンカチ、使ってないの・・・あった。
「使って。風邪ひいちゃうよ。」
「いいんですか?」
「遠慮しないで。助けてくれたお礼とは言わないケド。」
思ったより細く長い指。
髪の水玉を押さえ、うなじを拭いていく。
私はなぜか、彼の胸元を見ていた。
さっきの男のせいで少しはだけてしまっている。
・・・彼の胸元はキレイなものだった。
これも、雨の日に出会った男の子の話だった。




