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第3話 波間の命

手間取っている。

 手元の電話は不通だ。

 浸水現場からの応答がない。

「火災発生、場所、第4区画?!」

 後ろにいる伝令の声が上擦る。

「それは確かなのか?」

「確かに第4区画と聞こえました。」

 バカな、あそこは今区画自体を閉鎖し避退しているはずだ。

 待て?食堂・・・調理室。油火災か?その疑いが脳の端を走った。

「伝令!火災の種類は?」

 伝令がしきりに電話の声に耳を傾ける。

「現場、掌帆長(しょはんちょう)より、火災の種類は油火災。漏れた調理用油に電気のショートから火がついた模様。」

 応急長からの連絡ではない。

「待て!指揮官は誰だ?応急長は?」

 現場で何が起きている?

「現場より、区画から避退時にフレームの歪みにより、一部防水扉(ぼうすいハッチ)に漏水発生。その手当に作業員2名と応急長自らが当たったそうです。」

 やはり、艦の悲鳴は厄介事を引き起こした。

「どこの扉か?」

「通信室、前部主砲及び砲弾庫に通じる扉です。」

 全てが厄介だ。

 その時だった。

「敵潜水艦、潜望鏡視認!距離、右約6000!」

 潜水艦(オオカミ)が潜んでいたか。

「270度に魚雷、航走音聴知(ちょうち)雷数(らいすう)(ふた)!」

 撃たれた。

 反射的だった。口を突いて出た言葉は

「両舷、最大戦(さいだいせん)そぉおく!おっもぉおかあぁじ!270度、宜候(ようそろ)ぉ!」

 ふふふ、最大戦速って言ったって、これから間に合うはずもない。

 しかし、しかし、やれることをする。

 今、俺は応急長達だけじゃない。艦全員の命を引き受けている。

 波よ、押せ!

 (ふね)よ、水面を蹴れ!

 艦首を向かい来る魚雷に出来得るだけ平行に持っていく。


 ーしかしー

天よ

 なぜ?今なんだ。

 あんた、面白がってねえか?


天よ

 確かに戦争なんてバカなことをしてますよ。

 でもね、俺達は自分達の信じることを、できることをするしかないんだ。


天よ

 なぜ、簡単に命はなくなるんだ。

 どうして、俺達を焦りと恐怖の狭間に放り込むんだ!

 

ーだけどー

 

・・・抵抗できるだけマシか・・・

 この世には、抵抗する間もなく、考える暇さえもらえず去る命もある。

 生きてて良かったと思うことすら経験できなかった者もいる。

 俺達はこの年まで生きて、歯向かう元気があるだけマシか・・・


 偉大なる海を油と火で汚し、その上に親にもらった大事な命をぶちまける。

 そんな腐った世界を続けてるなんてナンセンスだ。


ーだけどー

・・・やることやるしかねえだろ・・・

 自分で選んだ世界だ。足洗うまで足掻(あが)くさ。


雷跡視認(らいせきしにん)!突っ込んでくる!」

 くっそぉ!何で右なんだよ!怒鳴りたいのを()える。

 左舷(ひだりげん)(きし)む音が聞こえる。

 艦橋のここまで聞こえるか。いよいよだな。

 破口(きずぐち)が開くか?

 速力をいきなりあげて、右向け右しようってんだ。

 撃たれた傷口はそら、血は吹くと思う。


 応急長の顔が目の端に入った気がした。


 その時だった。

「航海長!現場が第4区画・・・食堂の後部扉(こうぶハッチ)を完全に閉鎖していいか聞いています。これ以上応急長を待つと閉鎖不可能になり火もまわり、機関室等が浸水すると!」 


 波がゆっくり見えるよ。なぁ何してくれんだ。こんな時に・・・


天よ

 俺のこの苦しみは何か意味あんのかね?

 やり過ぎじゃねえのか?


「艦尾、爆雷射出用意!」

 指揮官ってのは激務だな。瀕死でも反撃を考えなきゃならない。

 幼馴染の命より前にあるのは国民の安全だ。



「なぁ、僕が落ちそうになったら助けてくれよな?」

「・・・あぁ!今度は僕が助けるよ。」

「約束だよ。」

「おぅ任しとけっ。」


・・・すまない。・・ごめん。・・・ごめんね。・・・ごめんなさい。・・・


「艦橋より現場へ。第4区画後部・・・・・閉鎖せよ。」


 ・・・俺はまた友の目を見て笑えるか?


「魚雷艦尾を通過!」

 艦は幸運にも(魚雷)を避けることができた。


 速力がなんとか波に乗る。

「間もなく敵潜水艦予測位置!」

 爆雷は射出。

 さもないとまた潜水艦(オオカミ)につけ狙われる。

 奴ら、潜望鏡を上げていた。

 こっちが速力を落とした理由。

 そう、脇腹に傷を負って瀕死なのは見て取ったハズ。

 ここで手出しせずに見逃せばいずれ必ずトドメを刺しに来る。


 やるならすれ違い(ざま)だ。

 存在(位置)確実(たしか)な、今、ここしかない。


 ただ、そんなに相手も深くは潜れていないはずだ。

 だからこそ危険なことに爆雷の爆発設定深度も浅くなる。


 つまりは爆発の衝撃波に艦体(かんたい)は保つのか?


天よ 

 二重、三重に試練をくださいますね。おつりが出ますよ。


 そんなに早く走りたくはないんだよ。

 腹から血を吹いて全力疾走させるって・・・鬼だろう。


 でも・・やると決めたらやる。少なくとも今は。

 ・・・それが俺の立場だ。


 厳しい。生きるっていうのは・・・なんでこんなに苦しいんだ。


`今、冷たい海水の満ちる防水扉(ぼうすいハッチ)の向こうに応急長(あいつ)はいるのだろう?

 覚悟していたって、迫り来る()の前には・・・・

 思うことだってあるだろう。


 俺は・・・俺の判断は・・・


「航海長!」

 誰かの声。

 あぁ俺は鬼にでも何でもなるさ!

「爆雷、射出始め!」


 爆雷の爆発の威力は敵潜水艦と彼らの艦を容赦なく襲った。

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