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第3話 覚悟(デツィード)

それから、二十数年が経った。

 少年達は青年になり、軍艦の甲板の上に立っている。

 国を守るために、海軍の軍人になったのだ。


 この数年、続いた戦争は膠着(こうちゃく)状態に入っていた。

 しかし、彼らの担当地区は敵国との一触即発の危機にある。

 そして彼らの艦はその先鋒として波を蹴っている。


「なぁ、ちょっとお間抜けなお前が航海長(こうかいちょう)とはな。」

「そう言うなよ。昔とは違うよ。」

「そうだとイイケドな。」

 彼の瞳は笑っている。

「ふん。大丈夫だって、任せときな。」

「お前は、肝心な時に回りが見えなくなる。注意しろよ。」

「昔の柿の木の話じゃないんだからさ。もう勘弁してくれよ。」

「違いないや。」

 二人は、肩を叩いて笑った。

 彼らを呼ぶ声が聞こえる。

「交代の時間だとさ。」

「あぁでも、もう長靴履いてるのか?」

「これが俺の戦闘服だからな。」

 もうすでに戦闘用の作業服に長靴だ。

「もう、衣替えだ。夏服は終わりだろう?」

 航海長と呼ばれた青年は白い夏の軍服だ。

「そうだな。帰る頃には冬服だ。用意してあるよ。お前はきちんと用意してるのかよ?」

「夏服は家に置いてきた。どうせ着るヒマないだろ。」

「ううん。要領がいいのかぁ?まぁ頼むよ。応急長(おうきゅうちょう)さんよ。」

「あぁ、艦の守りは任しとけ。」

 二人は足早に階段(ラッタル)を駆け下りた。



 彼らの艦が火を吐き出している。

「被害状況報せ!」

 航海長の声が艦橋(かんきょう)の喧騒をかき分けた。

「敵砲弾により、右舷第四区画に浸水。破口50センチ、水線下1メートル。

人的被害調査中。自力での遮防(しゃぼう)可能。」

 伝令が応急の作図盤にまとめた情報を報告する。

「現場指揮官の位置は?」

「隣接の第五区画、掌帆長(しょはんちょう)が対応中。火災については応急長が指揮官です。」

 艦長が身を乗り出す。

「火災はどうか?」

「食堂が燃えています。・・・現場より、自力での消火可能。」

 伝令が電話をしっかりと耳に当てた。新しい情報が入ったらしい。

「応急長より、敵砲弾は我が艦を貫通した模様。左舷(ひだりげん)に浸水を認む。」

 艦長はふと笑ったように見えた。

「ペラペラの駆逐艦だからな。弾は抜けたか。左舷の浸水は止められるか?」

 伝令がその意を懸命に伝えている。

「航海長、速力は?」

「現在のところ支障なし。」

 伝令が声を上げる。違う情報源からのようだ。

「機関室より機関異状なし。全力発揮(ぜんりょくはっき)可能。」

 艦長の目に決意が灯った。

 この時の為だ。そのために戦船(いくさぶね)は存在する。

「戦闘を継続する。右砲(みぎほぉ)(せん)。目標は同航(どうこう)敵艦(てきかん)。」

 艦首の4門の主砲が獲物を見定めるように右に旋回。

 痛手を負っても、冷静に全てが整えられていく。

 伝令の声が高らかに響いた。

(いち)2番主砲(ふたばんしゅほう)、撃ち方用意()し!」

 息を呑む間髪(かんぱつ)は無かった。

()っちぃかた(はじ)めぇっ!」


 しかし、それは敵も同じだった。

 相手を傷つけるなら、傷つけられる覚悟を。

 相手を撃つなら、撃たれる覚悟を。

 相手を殴るなら、殴られる覚悟を。

 ・・・しなければならない。


 彼らは壮絶な殴り合いをした。

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