終わりを失った男
(「・ω・)「ガオー
「――その願いは、おすすめしないよ」
ユズはそう告げた
静かな森の奥で薄明の光がゆらいでいる
そこに立つ男は、金属の胸当てを片手に
軽く笑っていた
「死ななけりゃ、稼げる。俺はそれで十分だ」
「……命を道具みたいに扱うのは、感心しないよ」
「構わねぇよ。死んだら何も残らねぇだろ?
だったら、死ななきゃいい。それだけだ」
ユズはしばらく黙って男を見つめた。
やがて、諦めるように息を吐き、掌をかざす
薄紫の光が男の身体を包み淡い刻印が浮かび上がる
「キミから何かを貰えるとは思えない
――“循環”から外れる
それが君か支払う"見返り"になるだろう」
男は意味もわからず笑い飛ばした
「なんだそりゃ
まぁいい、これで死なない俺の完成だ!」
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数日後
北の廃坑で、男は仲間とともに魔物と遭遇した
黒い甲殻を持つ巨大な獣
仲間たちは叫び、逃げ惑い、そして――死んだ
男だけが立っていた
胸を貫かれても、喉を裂かれても、息は止まらない
腕を食い千切られても、視界が赤く染まっても
意識は離れない
「はは……すげぇ……本当に、死なねぇ……」
しかし次の瞬間、笑いが悲鳴に変わる
確かに“死なない”
だが、傷がふさがるわけではなかった
流れ続ける血
焼ける痛み
裂ける感触
骨の軋む音
それらすべてが、終わらず続いていく
魔物が去り、腐蝕が進み……
虫たちが寄り、肉を食い、骨を啄んでも――
彼の“命”は、まだそこにあった。
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やがて身体は土に還り、形を失った
それでも彼は“在る”ことをやめられなかった
痛みの代わりに、虚しさが沁みていく
見ることも、聞くことも、もうできないのに
ただ、風だけが通り過ぎていく
その風の中で、遠くから声が届いた
――"だから言っただろう"
その声は怒っているでも、悲しんでいるでもない
ただ、静かに響いた
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“死なない” とは “終われない” こと
“循環” から外れた魂は “そこに在る” だけ
既に身体はなく、風すら感じられぬ魂は
終わりの来ない時の中で
――今も静かに立ち尽くしている




