やってきた卵の話 - 完
(「・ω・)「ガオー
「いま帰ったぜー!」
“神からのおつかい”を終えて
ジットが少女と共に屋敷へ帰ってきた
門を開けると懐かしい香りと
どこか変わった気配が流れてくる
「ジット!おかえりなのさ!」
リッタが笑顔で迎えると
少し離れた丘を指をさして言う
「ユズはあっちなのさ
ジット達が来るまでに完成させなきゃって
……ずーっとはしゃいでたのさ」
示された方角には
漆黒の尖塔をいくつも抱えた
巨大な城がそびえていた
外壁は闇そのものを練り上げたように黒く
そこを走る赤い魔力の筋が脈打つたびに
塔の先から黒炎がゆらめいて空を焦がすように輝く
ーーー地を揺らすような威圧感
「……やりすぎだろ、ユズ」
ジットが額を押さえると、隣で少女が苦笑した
「何の建物なんだ?」
「さてね。聞いてみるといいのさ」
リッタの笑みに
ユズの新しい“仕掛け”を察する2人
「報告もあるし、行ってみましょう!」
少女は興味津々にジットの腕を引き丘を登っていく
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大扉の前でジットが声を掛けた
「おーい、ユズ!いるか?」
建物の奥から、ひそひそ声が聞こえた
「……ジットだ
隠れて隠れて!あとは作戦通りにね!」
「…誰かいるのか?」
「だ、大丈夫!入っていいよ!」
ギィ……と扉を押すと
そこには玉座のような椅子に
腰かけるユズの姿があった
いつもの軽やかな雰囲気はなく
威厳に満ちた静寂
その場の空気すら支配するような
存在感に少女は思わず息を呑む
「やぁ、ジット。おつかれさま
――まずは報告を聞こうかな」
張りつめた空気とは裏腹に
ユズの声はいつも通り柔らかい
ジットは安心したように軽く笑い
距離を取りながら報告を始めた
「まずは装備、返しとくぜ。今回も助かった
これは街の人が神様に捧げたいって預かったやつだ
渡しておいてくれ」
「ありがとう」
ユズは頷くと、続けてジットが語り出した
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「覚えてるか? 北の鉱山都市
魔鉱の精錬で水が汚れちまって
街全体が苦しんでたあの場所だ
今回の神様からの依頼も、その街だった
そこで嬢ちゃんが町の役人と協力して
“灰苔”っていう
"汚れ"を吸う苔を見つけたんだ
今じゃ、水脈が澄んじまってるんだぜ!」
ユズの目がわずかに見開かれた
「スキルを使わない解決方法をみつけるなんて
……すごいじゃないか!」
少女は照れくさそうに笑う
「ジットさんと神様のおかげです
私なんて、まだまだですよ」
「いやぁ、嬢ちゃんは立派にやったさ!」
ジットは肩を叩きながら誇らしげに笑う
「この前の魔物も、嬢ちゃんがちゃんと討伐したんだ
もう立派な“英雄”だぜ」
「 "英雄" ね……」
ユズが口元に笑みを浮かべ、指を鳴らした
ドンッ――
玉座の背後で煙のような魔力が膨れ上がった
次の瞬間……
圧倒的な存在感をもつ“ドラゴン”が姿を現す
「っ!?」
少女はその力に呑まれ、膝が震える
ジットは即座に剣を抜き、ユズを睨みつけた
「おい、ユズ! なんのつもりだ!」
……ユズは肩をすくめ、いつもの調子に戻る
「ごめんごめん!
新しい家族を紹介したかったんだ」
「……は?」
「“願い”の見返りとして
強くてかっこいい "魔の森の主” の
演出を手伝ってくれるんだ!
2人の"英雄"がこれだけ驚いてくれるのなら
この"見返り"は大儲けだったよね!」
嬉しそうに笑うユズに、ジットもつられて吹き出す
「……ったく、お前ってやつは」
「トトさま もういい?」
ポンが尋ねると、ユズはふっと口角を上げて頷いた
「ああ、ありがとうね」
その声と同時に、“ドラゴン”の巨体が淡く揺らぎ
次の瞬間には小さな“亀”となって
ポンの頭の上へと収まる
どこか誇らしげに胸を張るポン
その姿に、ユズがいたずらっぽく笑った
「そうそう、ジットたちにも伝えておくね
この亀さん、僕より強いから
――怒らせちゃうと世界が滅びるよ」
「「は?」」
ジットが呆れ、少女が目を丸くする
けれどその声には、もう恐れも緊張もない
“世界を滅ぼす”ことのないとわかっているからこそ
この冗談は、ただの冗談として笑い合える
ポンは小さな手を伸ばして
抱え直した亀の鼻先でそっと少女の頬をつついた
怯えていた少女の表情がほころび
コンがくすりと笑う
その瞬間、部屋の空気がやわらかく光を帯びた
――今日も“魔の森”は平和である
少しだけ騒がしく、少しだけ優しい
そしてまた、新しい1日が巡り始めた




