やってきた卵の話 - 3
「それじゃあ
キミの “成り立ち” について
少し聞かせてくれるかい?」
リッタは卵から孵ったばかりの
“ソレ”に優しく問いかけた
部屋の隅ではポンが膨れっ面をして腕を組んでいる
本当に“我が子の口調”が気に入らないらしい
「“成り立ち”、か……
やはり吾輩の存在には疑念があるのじゃな
吾輩自身も、この“トカゲのような姿”にはどうにも
違和感があるのじゃが……うむむ」
「他に思い出せることはないのさ?
おそらくキミは“自分の願い”で
この森に来たわけではないと思うのさ」
「うむむ……」
その時、部屋の隅でポンが口を開いた
普段は自分から何かを求めることのない彼女が
わざとらしく言葉を挟む
「カカさま……お腹すいた」
どうやら、尊大な口調の我が子を
これ以上見ていられなかったようだ
加えて “命を孵す” という大仕事を終えたことで
空腹に気付いたことも事実だろう
「そうだね。ご飯にしようか」
リッタは微笑み手際よく食事の支度に取りかかる
「えっと……キミは何を食べるのさ?」
「ふむ……
吾輩は何でも食べられる気がする……気がするぅ」
ドラゴンはポンの鋭い視線に気づき
尊厳ある口調を慌てて高く愛らしい声へと変えた
リッタは思わず吹き出す
「意外にも対応力があるのさ!」
和やかな空気の中
温かい湯気が部屋を満たしていった
やがて食後
ドラゴンは声をひそめてリッタへ話しかけた
「……おそらく
我が身は元はこの姿ではなかったのじゃ……」
ポンに聞こえぬよう気を使うその態度に
リッタは小さく笑みを浮かべる
「対応力だけじゃなくて、配慮までできるのさ」
からかうように返し、リッタは真剣な表情に戻る
「……ポン。買い物をお願いするのさ
ドラゴンさんの寝床やおやつを揃えて欲しいのさ」
ーー
「“視て”わかったことはね
この世界の存在じゃないということだけなのさ
何かしらの理由で
この森に届いたんだろうけど
……その理由はボク達にはわからないのさ」
そして、言いにくそうに続けた
「ただ……“卵から孵ったばかり”のキミが
自分の身体に違和感を覚えるっていうのはね
おそらく、他者の“願い”によって
創り変えられた可能性があるのさ」
ドラゴンはしばし黙し、深く息をついた
「もし “元の姿” というものがあるのであれば
戻してほしいものじゃがの……」
その時、扉が開く
予想よりも早く家具や布団を抱えて帰ってきた
ポンがいつも以上に声を弾ませた
「ただいま!」
「ッ!……おかえりぃ!」
少し無理をして高く変えたその声に
リッタは驚き、ポンは満足そうに笑った
しれっと寝具を2セット準備しており
ドラゴンと一緒に生活するつもりのポンに
リッタは気付いた
ーー
尊厳と幼さが混ざり合う
奇妙で愛おしい家族の空気の中
リッタは静かに息をついた
――どんな“成り立ち”であろうと
いまこの世界に生まれた命は確かにここにある
ポンが嬉しそうに寝具を披露しており
ドラゴンはまだぎこちない声で「やったー」と返す
そのやり取りを見守りながらリッタは微笑む
窓の外では森の夜が、優しく鳴いていた




