やってきた卵の話 - 2
(「・ω・)「ガオー
卵を暖めはじめて数日が経った
ポンはまるで“本当の親”のように
小屋から一歩も出ずに卵を抱きしめ続けていた
リッタの瞳には卵に対しての警戒の色も宿っていたが
それ以上に強い“ポンの親心”に感化され
その姿を微笑ましく見つめている
ポンの為に食事を運び
そっと体を撫でて励ましながら
“子の願い”を尊重するように見守っていた
――ユズのスキルを用いたリッタであっても
その卵の中までは見通せなかった
分かったのは
「まだ形を成していない」という一点のみ
それでも、卵は確かに“生きて”いた
ポンの寝相は決して良いとは言えず
離れては卵はころりと転がってそっと寄り添い
尾の重みで潰されそうになればわずかに距離を取る
――あの森で動物たちに囲まれていた時のように
困った風に、けれど楽しげに
いつしか、卵とポンは互いに呼吸を合わせ
“親子”のように寄り添って眠るようになっていた
さらに数日が過ぎると卵は変化を見せはじめた
掌ほどだったそれは
いまや人の頭ほどの大きさにまで成長し
表面には淡い光が宿っていた
その光はまるで呼吸しているように揺らめいており
リッタの警戒は深まるが
ポンの笑顔がそれを打ち消すように明るくて
リッタもつい、その成長を共に喜んでしまう
そして――ある夜
「カシャッ」
小さな音が、小屋の中の静けさを破った
リッタが振り返ると
卵に一本のヒビが走っていた
続けざまに、光が溢れる
殻がはじけ、熱い空気が吹き抜ける
そこから現れたのは――
翼を持つ大きな影
まるでトカゲのようで
しかし、その瞳には理が宿っている
……紛れもなく“ドラゴン”だった
既に人間の子どもよりも大きいその存在は
口を動かすことなく
直接ふたりの心に語りかけてきた
「吾輩を拾い、育ててくれたこと
……深く感謝しておる
特にポン
そなたの尻尾はとても居心地がよかったぞ」
その声音には威圧も敵意もなかった
警戒を解いたリッタは息を整えて応える
「それはよかったのさ
……ここまで無事に育ってくれてうれしいのさ」
だが、横に立つポンの表情は渋い
リッタの隣で人の姿に戻った彼女は眉間に皺を寄せ
何か言いたげにリッタを見上げていた
「どうしたのさ、ポン?」
ポンは口を尖らせて言った
「かわいくない」
リッタは目を瞬く
「……中身までは見通せなかったから仕方ないのさ
ポンとは似ていないかもしれないけれど
でも…“ドラゴンの親”になれるなんて
滅多にできない体験なのさ!」
けれどポンは小さく首を振り、むすっと呟いた
「ちがう……はなしかた……」
「えっ?」リッタは思わず聞き返す
「はなしかた かわいくないの!」
ポンの言葉に
ドラゴンが困ったように小さく喉を鳴らす
その夜、森の小屋には――
焚き火と
新しい命の息づかいがやわらかく満ちていた




