とある医者の話 ‐ 5
(「・ω・)「ガオー
森の朝は思ったよりも明るかった
ひかりが木々の隙間を縫い葉に宿った露を照らす
それはまるで
「まだ生きているよ」と少女に囁くようだった
鳥の声と木々のざわめき
遠くで小さな水車が こぽり、こぽりと音を立てる
その音に合わせるように
リッタが火をくべ湯を沸かしていた
少女はまだ慣れない手つきで
木の椅子に腰を下ろす
その隣では
“魔の森の主”ユズが柔らかな朝を見つめていた
……昨日まで自分の世界は終わったと思っていた
いつまで生きられるかも
次に目を開けられるのかも分からない
痛みと苦しみの隣に いつも“死”が座っていた
けれど今、目の前の存在は「続きがある」
と言うように穏やかに微笑んでいる
「おはよう。体の具合はどうだい?」
「……だいぶ楽になりました
ここって……朝 ちゃんと来るんですね」
「魔の森だって“元は”普通の森だからね
僕とリッタのせいで少し変わってしまったけど……
陽は差すし花も咲くんだよ」
ユズは匙で薬草をゆっくり混ぜながら
湯の音に言葉を溶かしていった
「今日から少しずつ
医術の基礎を教えようと思ってるんだけど
……君のお父さんもいちばん最初に学んだ内容さ」
その言葉に少女はまぶたを伏せる
胸の奥で父の声がかすかに響いた気がした。
──“ ”──
少女はゆっくりと顔を上げ瞳の奥に確かな光を宿す
「ユズさん……私 学びたいです
お父さんのように……人を救う力を」
ユズは小さく頷いた
その横顔には安堵とほんの少しの誇らしさが滲んでいる
「うん それでこそだ
――ああ、そうそう
君に伝えたいことがあるんだ」
ユズが指を鳴らす
その“ひとつの音”が森の呼吸を止めた
次の瞬間
空気がゆらぎ光の粒が形を結ぶ
そこに現れたのは――コンとポン
けれど、いつもの姿ではなかった
少女が息を呑む。
「わ、私が……3人……?」
コンが優しく笑う
「この姿 少し 疲れる」
ポンが一歩前に出て静かに言う
「でも 頑張る」
「「トトさまが言ってた
“居場所を残しておけ”って」」
少女は言葉を失う
「この場所で学ぶ間
キミが街から消えたら大変だろう
だからコンたちが“キミ”として街で暮らすんだ
ちゃんと違和感のないようにしておくから
安心していいよ
キミが医術を学び……
父の教えを受け継いだあと
いつでもあの家に帰れるように――
キミの“居場所”を守っておくのさ!」
少女の胸に熱いものがこみ上げた
それは悲しみではなく確かな温もりだった
ユズが穏やかに言葉を継ぐ
「君の帰る場所はちゃんとあるからね
焦らずしっかり学ぶんだ
いまは僕の “娘” なんだから
中途半端は許さないよ」
リナは涙を拭いまっすぐに頷く
「……はい
お願いします ユズ"先生"」
その声にユズはふっと目を細めた
まるで誰かの面影を重ねるように
森の奥に朝の光が差し込む
そのひかりは
少女の新しい道を照らしていた
今日 少女は
“医の徒” としての一歩を静かに踏み出す
森の朝の光がその背をやさしく押していた




