とある医者の話 - 4
(「・ω・)「ガオー
ユズは少女の唇に薬を含ませた
意識はまだ朦朧としているらしく
ぐったりとした身体は
まるで布の人形のように動かない
ここへ運ばれたことにも
まだ気づいていないのだろう
やがて薬が身体に行き渡ると
淡い光が少女の胸の痣を包み込み
黒い紋様がじわりと薄れていった
窓の外から差し込む光が
その変化を静かに照らしている
──瞬間
ユズの脳裏に古い記憶が走った
木の机 薬瓶を磨く男の指先
そして娘に向けた穏やかな笑顔
それらは 心の奥でふっと揺らいで消えた
「……これで、大丈夫かな
さぁ目を覚ますまで
ゆっくり休ませてあげよう」
ユズは静かに立ち上がり
軽く手を払う仕草をして言った
「コン、ポン。看病をお願いしてもいいかな?」
──
胸の奥でひとつの記憶が微かに疼く
思考 感情 そして――ただひとつ
“娘を救いたい”
という願いだけが消えることなく灯っている
──
「うっ……」
少女が痛みに顔をしかめゆっくりと瞳を開けた
「「 トトさま 起きた! 」」
コンとポンが声を揃えて駆け寄る
小さな足音が床を波紋のように伝っていく
「やぁ、具合はどうだい?
あ、まだ無理はだめだよ」
ユズは椅子に腰を下ろして
声をできるだけ柔らかくした
少女はきょろきょろと辺りを見回す
知らない場所 知らない顔に
戸惑いながら言葉を探す
ユズはそんな彼女にゆっくりと語りかけた
ためらいも……迷いもなく
「――実はね
君のお父さんがここに来たんだ
そして“魔の森の主”に願った
その願いのために
自分の“すべて”を差し出してね
"君を救うため"に」
動かない体で何日も待ち続けていた
もう……父は戻らないのだと思っていた
その父が命を懸けて治療法を探してくれていたと
知って胸の奥から熱いものがこみ上げ
ぽたり と涙が頬を伝った
「……キミからしたら
僕は“父の仇”かもしれないね
どうする? “仇”を取ってみるかい?」
ユズの声は冗談めいていたが その瞳は真剣だった
少女は震える声でゆっくりと首を横に振った
「そんなこと……しません
どんな理由があっても……
私は“人を救う”父の姿を知っています
母がいなくなっても
父はずっと人を助け続けていた
私は
――医者の娘であることを誇りに思っています
だから……どんな理由があっても
人を殺すことなんかしません」
その声は静かで
それでいて確かな力を宿していた
ユズは彼女を見つめた。
自分と外見だけで見れば歳の変わらぬ少女の中に
確かな意志を感じ取ってそっと笑う
「お父さんはね……
キミにも医者になってほしかったみたいだよ
言えなかっただけでね」
その言葉は優しく
どこか父の残した温もりを含んでいた
部屋の空気が、少しだけ柔らかくなる
「さあ、ご飯にしよう
食べ終わったら
お父さんのことをもう少し話してあげる
僕はもう人間じゃない“ナニカ”なのにさ――
本気で、心配してくれてたよ
“魔の森の主”相手に一歩も引かずにね……
もう彼はいないけれど
その“知識”も“記憶”も……
“立場”も、今は僕の中にある
キミを立派な医者に育てることだってできるよ
もちろん……キミが望むなら、、だけどね」




