とある医者の話 ‐ 2
(「・ω・)「ガオー
「“全て”とは……どういうことかな?」
男は困惑を隠せずにユズを見つめた
そのままの意味だよ とユズは静かに答える
「僕たちは
“治療法を見つけるための手助け”を行う
そして――“治療法”が見つかった時
僕はあなたの“全て”を貰い受ける
それだけさ」
「……それは、どういう」
問いを重ねても答えは返ってはこない
男の理解は追いつかずに言葉を失う
「悪いけど
今回はこの“条件”を変えるつもりはないよ
嫌なら、そのまま此処を去ればいい」
男は黙り込み目を伏せた
“全て”――それは何を指すのか
"記憶" か "立場" か
あるいは "存在" そのものか
この森から二度と出られぬという意味なのか……
ユズの言葉が静かに落ちる
「でも……あまり時間もないんだろう?」
思考の奥に娘の姿が浮かんだ
枯れた花のように弱っていった小さな笑顔
男は唇を結び、短く息を吐く
「……わかりました ……お願いします」
納得はしていない
だが “父” として “医者”として
――選ばねばならなかった
「それじゃあ――」
ユズはゆっくりと手を差し出す
「貴方に “診断” “解剖” “調薬”
3つのスキルを "貸与" する
そして治療法を探す手助けをしよう
その “見返り” として
あなたは “全て” を僕に捧げる
さあ “誓約” を」
男はためらいながらも手を伸ばす
「……必ず、娘は助けて欲しい」
「そこは任せてほしい」ユズの瞳が柔らかく揺れる
「貴方が見つける治療法で
娘さんを必ず救ってみせるよ」
安堵の息を漏らしながら男はその手を取った
「“誓約”は成った!」 ユズが宣言する
「コン!娘さんの容態を確認してくるんだ
ポンは研究室の準備をお願いね」
指示をうけた少年と少女は素早く動き出した
その背を見送りながらリッタが男に尋ねた
「それで……娘さんは、どんな病気なの?」
「“刻まれ病” と呼ばれている」
男の声が低く震える
「手首に痣が現れてそれが胸へと広がる
まるで
燃え尽きた墨が皮膚の下を這うように……
胸にまで届いたとき――命は絶える
進行を止める術も原因もまだ分かっていない病だ」
「……それは急いだがいいのさ」
リッタが頷き研究室へ案内する
ほどなくして娘の容態を確認してきた
コンが戻りユズに小さな包みを手渡した
「早速だけど準備はいいかい?
勝手だけど 貴方の荷物も運んできたよ
それじゃあ……コン、よろしく!」
そう言うと
ユズは服の袖をまくり上げて腕を掲げた
男がその仕草に目を奪われた瞬間――
スパッ ……
鋭い閃光が走る
腕のみを獣の姿に変化させたコンによって
ユズの腕が斬り落とされた
紅い飛沫が宙を舞い空気が一瞬で張り詰める
「痛たぁーッ!」
ユズは叫びながらも自分の腕を拾い上げた
そしてコンから受け取った少女の一片を
斬り落とされた腕へと埋め込んで
“止血”と“保持”のスキルを発動させる
"ポゥ"と淡い光が広がると同時に傷口が閉じていった
「この腕は娘さんと同じ病に侵された状態さ
伝染ることはないだろうから安心して!」
ユズは無邪気に笑う
「さあ
あなたの知識と経験で"治療法"を見つけよう!」
男は一瞬声を失った そして叫ぶ
「待て! その腕は治るのか!? 痛みは――」
「うん? 治るけど……治してしまったら
その腕もなくなってしまうから研究ができないよ?
痛みはあるし 感じなくもできるけど……
“痛み”を忘れた存在なんて“良いモノ”じゃないからね」
「そんなことが――!」
男は息を荒げてユズのもとへ駆け寄る
「こっちに来なさい。まずは止血だ!
さっきのスキルは自分にも使えるのか!?
コン……といったかな そのカバンから包帯を!」
娘の命を救うために何より求めていた
最良の"サンプル"よりも先に
自身の傷を気遣う男の姿をみてユズは静かに微笑んだ
「驚かせちゃってごめんなさい
場の雰囲気というか
……ちょっと張り切っちゃって」
「……娘と同じくらいの歳の子が
そんなことをしたら心配するに決まってるだろう
……あと私は凄く怒っている」
「ごめんなさい」
ユズは落ち込んだ素振りをしながらも
それでもどこか嬉しそうに笑った




