とある医者の話 ‐ 1
(「・ω・)「ガオー
「「 トトさま お客さま 」」
大きな獣の姿の2人とじゃれ合うように
戦っていたユズも森の空気の揺らぎに気づいた
屋敷へと通じる結界にナニカが干渉したのだろう
ーー
屋敷の前には ひとりの男が立っていた
その顔は驚愕に歪んでいる
「ここは……ッ!?
ここはどこなんだ!
家にいたはずなのに……
こんなところに居る場合じゃないッ!」
大きな獣を従えるように屋敷へ帰ってきたユズと
時を同じくして結界の動きを察知した
リッタも合流して男に近づいて尋ねる
「これはまた……珍しいタイプの客人なのさ
えーと……おじさん?
随分と急いでるみたいだけど
どうしたのさ?」
「ここはどこだ!? 家に返してくれ!」
泣きそうな声で叫びながらも
必死にこの状況を理解しようとしているのだろう
自分に声をかけてきたリッタの肩を勢い良く掴む
その瞬間――
「えいっ」
大きな狸 ポンの掌が振り下ろされた
鈍い音と共に男はその場に崩れ落ちる
「……今のはしょうがないかな」
ユズとリッタは顔を見合わせ
苦笑しながらポンの頭を撫でた
「とりあえず場所を変えようか」
ユズはしゃがみ込むと男に触れて
何かを確かめるように目を細めた
そしてポンに合図を送り 屋敷の中へと運ばせる
ーー
「……ハッ!」
男は跳ね起き、ユズたちを見回す
さきほどの取り乱した姿とは打って変わり
落ち着いた声で口を開いた
「取り乱してすまない
……よければ
ここがどこなのか――教えてくれないか」
リッタがユズに目配せをして質問に答える
「聞いたことあるかな? ここは“魔の森”さ
あなたがここに居る理由は……
残念だけどボクたちにはわからないのさ」
"魔の森"……
男は呟いて考え込む様子をみせる
「つまり君たちは“魔の森の主”の関係者なのかな?
……ならば 私をその主に
会わせてはもらえないだろうか」
「いいけどさ
その前に理由を聞かせて欲しいのさ」
時間がないのですぐにでも会わせてほしいのだが……と
前置きしながらも男は真摯に答える
「私は街で医者をしている
だが――娘が大病を患ってしまってね
私の知識では……
いや、どんな医者でも治せはしないだろう
大切な一人娘の病を治す方法を求めて
書物を漁っていたら気づけばここに居たのだ
おそらく “癒し手” たる
"魔の森の主" が私を呼んだのだろう
お願いだ!
“魔の森の主” のもとへ案内してくれ!」
リッタが視線を送ると隣に座るユズが
首を横にブンブンと振っていた
ーー
「期待していた姿と違っていたら ごめんね
“魔の森の主” ユズです
つまりあなたは――
"娘さんを治したい" という “願い” によって
ここに来たんだね」
「こんな子どもが……?
いや、そんなものは関係ないのか」
噂どおりなら……と男は頭を下げる
「 “娘を救うための治療法” を授けて欲しい
日に日に弱っていくのがわかってしまうんだ
このままでは……!」
「 “治療法” ?」とリッタが首を傾げる
「 "治して欲しい" とは願わないのかい?
そうすればすぐ解決なのさ
それに、ポーションを手に入れるっていう
選択肢もあったんじゃないのさ?」
「当たり前だ!
1度患ってしまったのなら……
2度目がないとは言い切れない
私は医者だ
“治してもらう” よりも “治せる”ことに
価値があると思っている
もちろん娘を救いたい
だが この病で苦しむのは娘だけではないんだ
他の命も救うためにも……"治療法"が知りたい」
男の目には父親としての愛情だけではなく
医者としての矜持も宿っていた
「事情はわかったよ
娘さんの病の “治療法” を見つけよう
……ただし、それはあなた自身が見つけるんだ
“医術” のスキルはすでに持っているみたいだね
じゃあ…… “診断” “解剖” “調薬" かな
3つのスキルを貸与しよう」
求める返答を貰えたことで男は顔をあげた
「おぉ……!
伝え聞く “見返り” というものはどうなる
私は何を差し出せばいい?」
ユズは微笑んだ。
けれどその目だけは、どこまでも静かだった。
「 “全て” さ。」
男はその言葉の意味を測りかねたまま
ただ小さく息を呑んだ。




