少女の話 ‐ 完
(「・ω・)「ガオー
「グッドモーニング! よく寝ていたね!」
「グッモ……?
すいません、気付いたらベッドの上で……」
「謝らなくていいのさ
あの状態の両親を見せたユズが悪いのさ!」
えっ……記憶によれば
リッタが「見せてあげたらいいのに」
と言ったはずなのに——
責任を押し付けられたユズは大げさに肩をすくめる
いつも通り軽口を交わす2人の空気が
あまりにも明るくて
少女は思わず口を挟むタイミングを探した
そして、勇気を振り絞って声を上げる
「あの……私の家族は……?」
目覚めたときには弟の姿もなく
あの笑顔が夢だったのかと
胸が押しつぶされそうになっていた
「キミの家族ならもう家に戻ったよ
"ナニカ"に襲われた記憶も綺麗に消してね
キミも帰ったら"変わらない日常"に戻れるのさ」
リッタが言うのなら本当のことだろう
だが、自分の目で確かめるまでは信じきれない
——それも現実だった
「本当に……ありがとうございます
でも……
"魔の森の主" であるユズさんたちが
"見返り" もなく家族を助けてくれる
とは思っていません
……私にできることなら……なんでもします」
少女の言葉に、ユズがゆっくり頷いた
「"願い"と"見返り"は一つずつが基本なんだよね
僕はキミに
『荷物を持って帰ってきてほしい』と願った
その"見返り"に弟くんを取り戻した…ってことで
あとは父親と母親だね!
つまり、キミが背負う"見返り"は2つさ」
「2つ……」
少女は思考の渦に飲み込まれそうになる
けれどユズが続ける声がその迷いを引き戻した
「"鏡の英雄"って存在を知っているかい?」
「聞いたことはあります
困っている人と同じ姿で現れて
共に困難を乗り越える英雄ですよね
"救われるモノ" "救われないモノ"
全ての人の前に現れるわけではなく……
そう……神の代弁者でもあるとも」
「そうそう!
で、その“鏡の英雄”ってのが
……実はジットなんだよね!」
あっさりと明かされた事実に、少女は言葉を失う
「かつての僕たちみたいに
"何でもできる存在"じゃないんだ。
"頼れない" "頼られすぎない"
けれど、どうしようもなく困っている
人々に手を差し伸べる——それが"鏡の英雄"さ」
「前にも言っただろ?
僕たちの活躍が"物語と変わるまで"って
でも僕たちが"居ない間"にも
世界には危機が訪れる
その間の“救い”が必要だと神様が言ったのさ
……そこでジットが"鏡の英雄"になった。
神様からの "おつかい" を引き受けることを
条件に、僕たちと一緒に過ごす許可を得てね」
「……なるほど
でも、、それが私の"見返り"とどう関係が?」
ユズは口角を上げた
「僕らの求める見返りは単純さ
——キミにも "鏡の英雄" になってほしいんだ」
少女は息を呑む
「ジットひとりでは世界を救いきれない
キミは彼の戦いを "体感"した
剣の軌跡、呼吸、鼓動——すべてを
その中で既にキミには
"戦闘"や"剣術"、"指示"といった
スキルが目覚め始めている
"英雄"なんて、、と思うかもしれないけれどね
努力すれば、必ず届く"世界"なんだ」
少女は唇を噛みしめた
「ジットさんたちの戦いを見て、、体感して
"憧れ"がないとは言いませんが……」
ユズが続ける声にはどこか優しさが滲んでいた。
「……アズラさんはね、もう長くないんだ。」
少女がその言葉に反応する
ユズは静かに、続けた
「ジットには伝えてない
でも、2人とも薄々わかってるみたいだけどね
それでも“頼らない”って決めてるのさ
2人は僕たちの"干渉"を求めていない
僕たちや神様の力を"知って"いるくせに……
だからせめて少しでもながく
一緒に過ごせる時間を作ってあけたいんだ
ジットの人生を大きく変えてしまったのは
間違いなく僕たちなんだからね
……でも まぁ
アズラさんと一緒になれたのは
僕たちのおかげでもあるんだけどね!」
少しだけ照れくさそうに笑うユズに
リッタが肩を竦めて悪戯っぽく続けた
「つまりユズは
ジットとアズラの時間をつくるために
キミを"巻き込んだ"
……キミの家族を"救った"その"見返り"として
——キミに"英雄"になることを強いている
そうだな
父親、母親を救ったことへの"見返り"は
"キミが 鏡の英雄になること"
そして "鏡の英雄たる力を身につけること"だね
……まるで悪魔みたいな取引なのさ!」
少女は何も言えなかった
けれど、頭の中に浮かぶ顔がある
ジット コン ポン
そして"ナニカ"ともう会えるはずのなかった家族——
少女の世界はすでに変わってしまった
ならばせめて その変化を受け入れよう
あの戦いで感じた憧れと共に
少女は深く息を吸い、目を閉じた
「……私に務まるかわかりません。
でも、その "見返り" 必ず果たしてみせます」
ユズの表情がやわらぐ
「ありがとう!
無理やり押しつけた自覚はあるからね……
感謝とお詫びを込めて
1つだけ “ささやかな願い” を
叶えてあげようじゃないか」
リッタが一瞬、ぴくりと眉を動かした
ユズの言葉の中に
自分が “ささやかな存在” とされた過去がよぎる
リッタの反応を気にすることなく
ユズは穏やかに続けた
「"ナニカ"との遭遇で
キミの世界は間違いなく広がっただろう
もう、知らないふりはできないはずだ
"世界の見え方"…つまり"住む世界"が
変わったとも言えるキミに
僕たちからのプレゼントだよ
神様の "まねっこ" だけれどね
さぁ……キミの “願い” はなにかな?」
ほんの少しの沈黙
少女は目を伏せ、そして顔を上げる
「…………私と、友達になってください!」
ユズとリッタは思わず顔を見合わせた
ほんの一拍の静寂
そして——リッタが小さく笑った
「まいったねぇ」
ユズが頭を掻きながら笑う
「神様と肩を並べられるほどの存在に
なったつもりだったけど……
“ささやかなモノ”
って言われるのはこんな気分なんだね」
「ふふ、いい気味なのさ」 リッタも笑う
その笑顔にはもう寂しさも棘もなかった
ユズとリッタは、少女に向けて声を合わせる
「「これからも、よろしくね(なのさ)!」」
——小さな願いがまた1つ
ユズたちの世界をも少しだけ優しく変えた




