少女の話 ‐ 10
(「・ω・)「ガオー
「おかえりなのさ!」
扉の奥からリッタが穏やかに声をかけた
だが、少女には届かない
その場で泣き崩れ弟を強く抱きしめている
「お姉ちゃん、どうしたの?」
弟は涙の意味がわからず戸惑いながらリッタを見る
「まだ形を保てるほど
安定しているわけじゃないからね
あんまり強く抱きしめない方がいいのさ」
その言葉の意味を理解するのに数秒かかった
少女は慌てて弟を離し震える手でその身体を確かめる
温かい……ちゃんと息をしている
それだけで胸がいっぱいになった
けれど、なぜここに弟がいるのか
なぜ“生きている”のか
疑問がこみ上げてきて少女は顔を上げた
「とりあえずお茶でもどうかな
もう少し時間がかかるみたいなのさ」
リッタの声からユズがまだ戻っていないことを悟る
弟の姿を何度も見つめながら──
もしかしたら、両親も……
そんな希望が抑えきれずに胸の奥で膨らんでいく
ーー
やがてユズが奥の部屋から姿をみせる
「やぁ! 荷物ありがとうね!」
その声はとても軽やかだった
少女はユズに続き
両親の姿が現れないことに落胆しながらも
弟がここにいる奇跡を噛み締めて言った
「父と母は……残念でしたが
弟を助けてくださってありがとうございます
私にできる“見返り”は想像もつきませんが
ユズさんたちのために何でも致します」
深く頭を下げる少女を見て
ユズはリッタに視線を向ける
「……えぇ、まだ話してないの?」
「ついさっき帰ってきたばかりさ
感動の再会を邪魔できないのさ!」
「そういうことか……」
ユズは一息ついて少女に向き直る。
「先に言っておくけど、君の両親はここにいるよ
でも──まだ会わない方がいいと思う」
その言葉に、少女は部屋を見回した
けれど、どこにも姿はない
ユズに許可を貰い屋敷中を駆け回る
それでも両親を見つけ出すことができずに
ユズとリッタの元へ戻ってきた
「見せてあげるといいのさ」
リッタの言葉を聞き少女は吠えた
「お願いします! 会わせてください!」
懇願する声に、ユズは短く息を吐いた
「……本当に?
じゃあ、君だけだよ
僕は弟くんには絶対見せたくないからね」
2人は奥の部屋へ向かった
灯りの少ない静かな部屋で
ユズがゆっくりと両手を差し出す
「ほら」
少女は“ほら”の意味がわからず
ただその掌を見つめた
──そして息を呑む
そこには両親の顔が浮かんでいた
少女に気付き確かに喜んでいる
喜んでいるはずなのに……
凹凸のない皮膚 形の定まらない口
笑っているのか叫んでいるのか分からない
──それは“生きている”顔ではなかった
声を失い 足がすくむ。
少女はただ ユズの手の中でゆらめく
“両親の顔”に触れようとして──
そのまま意識を手放した
---
「だから言ったのに
……リッタも意地悪だなぁ」
「どうせ見せなきゃ
ずっと会いたいって言い続けてたのさ!」
「それはそうだけど……」
少女をベッドに運び
隣に弟を寝かせたユズとリッタは
静かにお茶を飲みながら話す
洞窟で回収した “ナニカ"
その中には 動物も、魔物も
"少女の家族" も、すべてが溶け合っていた。
ユズがそれを取り込み、“解析” し “解きほぐす”
“復元”──“形成”──“定着”
元の身体を"復元"する
皮膚や内臓といった"足りない"ものを形成し
"ズレ"のないように"定着"させていく
両親とは違い弟の身体だけは奇跡的に保たれていた
まるで何者かに守られていたかのように
…おそらくそれが"ナニカ"の願いに繋がるのだろう
「……あの子が起きるまでには
元に戻してあげたいけどね」
ユズがぼそりと呟く 「間に合うかなぁ」
リッタは静かに頷きユズとの魔力をの繋がりを強めた
夜の森の外では
木々がざわめき、風が通り抜けていった




