少女の話 ‐ 4
(「・ω・)「ガオー
「奴は洞窟の奥にいる
――ここは俺が引き受ける
嬢ちゃん、コン、ポン
お前たちは奴を探してくれ」
ジットは短く言い切ると
少女から受け取った通信用の魔導具をみせる
「これで連絡が取れる
コンとポンも同じものを持ってるな?」
「「うん、ある!」」
淡く光を放つ水晶のような球を指先で弾き
2人の持つ同じ魔導具と共鳴させる
2人の素早い返事を確認してジットは頷いた
その落ち着いた表情に反して
少女の胸は不安でいっぱいだった
「……一緒に、戦わないんですか?」
声が震える。
彼が前線に立つものだと思っていた
まさか自分が洞窟の中へ入る役に
なるとは想像もしていなかったのだ
ジットは少女の目をしっかりと見据える
その瞳には迷いがなく優しさが滲んでいた
「不安なのも分かる
だがな……
奥にいる奴の“影響”で
この山の魔物どもは正気を失っている
普段なら逃げるような弱い種でさえ
今は牙を剥いて襲いかかってくる
――洞窟の中では奴が切り離した分身が
出るかもしれんが……
前方にだけ注意していればいい
山の魔物たちは……俺が絶対に通さない」
その言葉には力があった
少女の恐怖は消えないまでも
胸の奥で何かが静かに灯る
「それに
コンとポンが助けてくれる
そうだろう?」
「「任せて」」
2人が同時に頷く
その声は無邪気さの奥に確かな自信を秘めていた
「……分かりました。私、行きます」
その返事は震えていたが確かな意志があった
少女は深く息を吸い
2人と共に洞窟の闇へと足を踏み入れる
その背に向かって
ジットは誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。
「……頼むぜ」
──
少女らを見送ったことで
静寂が戻ると同時にジットの体から力が抜ける
幾度も回復薬を使い切った身体だが限界に近かった
だが、倒れるわけにはいかない
ここで止めなければ少女らの背中に魔物の牙が届く
ジットは手のひらに小さな水晶球を載せると
ためらいなく飲み込んだ
そして聖都奪還の戦いで
ユズとアズラが作り上げた
――“魔物誘導の魔導具” を起動させる
「……久しぶりだな」
あの頃のアズラの歌声が響き渡り
その声に懐かしさを感じた瞬間
水晶が喉奥で淡く光って森全体がうねり始める
次第に地鳴りのような唸りが近づき樹々が震える
そして無数の咆哮が夜気を切り裂いた。
ジットは刀を抜く
空気が震えるほどの気迫がその場を満たす
「来いよ……
俺が全部 引き受けてやる」
言葉の直後
森の影から数多の魔物たちが雪崩れ込む
斬撃が閃き咆哮と共に血飛沫が夜を染めていく
だがジットは退かない
「……間に合ってくれよ」
そう呟いた声は激戦の轟音にかき消されていった




