魔の森の主
(「・ω・)「ガオー
「それで──君は一体、何を望むんだい?」
僕は少女の瞳をまっすぐに見つめながら尋ねた
「“魔の森の主”である貴方なら
どんな願いも叶えてくれると聞きました」
「叶える、ねぇ……」僕は肩をすくめた
「何かを変えたいなら
自分の力でやるべきだろう
……まぁ、聞くだけ聞いてあげるよ
もちろん"対価"はもらうけどね」
適当にあしらって帰ってもらおうと思った矢先
少女が震える声で叫んだ
「人生を──すべて見てもいい!」
その瞳は"お願い"をする者のものではなかった
憎むべき相手に向けるような鋭く、揺るぎない視線
「“人生を見てもいい”か…
キミの言葉ではないね
……誰から聞いたんだい?」
「私を助けてくれた、剣士さんです」
少女は俯き、小さく続けた
「……私だけを助けてくれた」
僕は悲しげなその表情に寄り添わなかった
彼女の悲しみは
すでに取り返しのつかない過去に属している
今さら慰めの言葉など無意味だ
「なーんだ 紹介で来たのか!」
手を打って笑いながら僕は声を張り上げた
「それを早く言ってくれなきゃダメじゃないか!
おーい、リッタ!
ジットからのお客さんだよー!」
突然の態度の変化に少女は一瞬たじろいだが
“願いが叶うかもしれない”という希望が
かすかにその顔を上げさせた。
やがて、ゆっくりとした足取りで
奥の部屋からひとりの女性が現れる
「声が大きいよ
……君とは繋がってるんだから
叫ばなくても聞こえてるのさ」
「あっ、そうだったそうだった
でもジットの紹介なんだ!
もう何年も会ってないなぁ
あー、ジットに会いたいよね!」
「 “おつかい” を終えたら戻ってくるだろうさ
それで? その子の願いは?」
忘れていたことを思い出したように
僕は少女に視線を戻した
「家族を殺したあいつらに……復讐する力がほしい」
僕は心の中で“ありきたりだな”と思ったが
口には出さなかった
「なら、強くなればいいじゃないか
わざわざ魔の森の主に頼らなくても
何十年か鍛えれば復讐できるんじゃない?」
「……家族に会いたいの。いますぐにでも。
でも、みんなを殺したあいつらだけは許せない
許しちゃいけないの。
復讐を終えたら…私は家族のところに行くんだ!」
その言葉に、ユズが応える。
「“人生を見てもいい”という対価を提示しておいて
すぐに死ぬ予定なのかい?
復讐を終えた後に
君の自殺を私たちに見ろってこと?」
「それは……」
「君は“お願いする側”なんだよ……
交渉を成立させたいのならもう一度よく考えるんだ
遠路はるばる来てくれたからさ
今夜は泊めてあげるよ
外の木の実や果物は自由に食べていい」
返す言葉もなく俯いた少女をリッタは部屋に案内した
「じゃあ、また明日ね」
ーー
2人きりになったあとリッタが僕に話しかけた
「久しぶりの来客にしては冷たい対応じゃないか」
「僕だって助けてあげたいよ!
でも、誰にでも力を貸したら神さまが怒るだろ?」
「まぁ、そうだろうね
……ただの案内人だったボクが
神さまと揉める日が来るとは思わなかったけど」
「もう何十年も前だね
世界を救って褒められるどころか
“バランスを崩すな”って怒られるんだから
で、でも今回はジットの紹介だ!
神さまから文句なんて出ないよね?
……言われたら、また殴っちゃおう!」
僕たちは顔を見合わせ、ふっと笑った。
「願いを叶えるって言っても
僕たちの“最善”を押しつけるだけなんだけど……
とりあえずは明日、話を聞いてからだね」




