13.師匠
(「・ω・)「ガオー
“直感”のスキル――
それは嘘をつけば即座に
見抜かれる危うさを孕んでいる
疚しいことは何もしていない
けれど
"別の世界から来て元のユズと入れ替わった"
と話しても信じてもらえるとは思えなかった
今はただ 不信感を与えずに
“ジット"の知る"ユズ"という立ち位置を保つこと
嘘ではないが
すべてを語ることもできない
――その微妙な均衡の中で"敵ではない"
と認めてもらうことが第一だった
「その“誓約”ってスキルで結んだ契約
……破ったらどうなる?」
ジットの問いにボクは言葉を詰まらせた
いままで契約が破られたことも
強い制限を課したこともなかったからだ
代わりにリッタが落ち着いた声で答える
「破ることなんてできないさ」
当然のように告げた言葉にジットの眉がぴくりと動く
「ユズの“誓約”は
他のスキルとは少し違うんだ
互いの同意で結ばれた契約は
決して反故にできない
一生どころか――命を終えても有効かもしれないね
だからジットは喜びなよ
ユズがこのスキルを悪用するような子じゃなくてさ」
リッタの声音にはどこか挑むような響きがあった
その挑発を受けるようにジットは腰に手を伸ばす
ゆっくりと しかし確実な動作で――
隠していたナイフを抜いた
金属が鞘を離れる微かな音
空気がわずかに緊張する
そして、そのまま振りかぶった瞬間
――カラン……
ナイフが床に落ちる音が響いた
ジットは手を見つめて数度握りしめる
指先に力は入らない
ナイフを拾い上げて腰に戻すと
今度は拳を振り上げた
だがその拳も彼の身体はユズの目の前で止まる
まるで、透明な壁がそこにあるかのように
「……なるほどな」
ジットは目を閉じてしばらく黙考した
そして低い声で言う
「ユズ
お前を冒険者として鍛えてやる
村の暮らしに支障が出ない範囲なら
村人からステータスをもらうのも構わん
だが――
俺のスキルと魔法を覚えたら
この村を出ていけ
そして二度と戻ってくるな」
突き放すような口調だった
しかしその奥にあるのは怒りではなく
覚悟の声だった
混乱するボクをよそにリッタは静かに頷く
まるで
最初からこの結末を知っていたかのように
「ジットが言っていただろう?
スキルを“視る”なんて
本来は聖都でも大金が要る
つまり、スキルそのものが
“教会の管理下”にあるということさ
そしてユズ……君も危険な存在なんだ
“誓約” のように絶対的な力を持つスキル
他者のステータスを
受け取ることができる人間なんて――」
「そういうこった」
ジットの声はどこか寂しげだった
「リッタの力を教会に知られたら
この村がどうなるかわからん
危険を承知で
お前らをここに置くことはできねぇ
それにユズ……お前の話も全部じゃないだろう
将来的にはお前の“意思ひとつ”で村の人間の
生死すら左右しかねん
だが――お前の父親のよしみだ
その力の行く先はこの目で見届けたいと思う
だから……それまでに鍛えてやる
そして
……出ていってくれ」
ジットは深く頭を下げた
謝罪でも懇願でもなく静かな覚悟の仕草だった
ボクはリッタに視線を送る
彼女は微笑み
すべてをボクに委ねるように頷いた
「……わかりました
短い間かもしれませんが
よろしくお願いしますね――師匠」
そうしてボクは
ジットのもとで修行を始めることになった
冒険者としての技術と知識
そして
彼の持つスキルと魔法を学ぶ日々が始まった




