表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
煉獄の魔女  作者: 古木花園
一章
2/29

焔の娘



「……お前、殺しに来たのか。」


 その言葉に、レオンは一瞬、背筋が凍った。

 少女の声は確かにかすれていたはずなのに、心の奥に鋭く突き刺さるような強さがあった。


「えっと、……ごめん、誰かが助けを求める声を上げてる気がして。鍵、開いてたし……」


 言い訳じみた言葉を並べながら、レオンは少女の鎖に視線を落とした。

 重たく錆びた鉄の環が、彼女の手足を縛っている。刻まれた焼印のような紋様が赤黒く皮膚を焦がし、そこからは微かに煙のようなものが立ち昇っていた。


 ──これは「魔女の刻印」だ。

 この世界で、強力な魔力を持つ者に対し教会が使う裁くべき魔女の証。


「君は、魔女……なの?」


「そうよ。立派な“魔女”よ。……明日の暁に、火あぶりになる」


 あまりにあっさりと口にされて、レオンは言葉を失った。

 魔女。

 それはこの世界で最も忌まれ、最も恐れられる存在。

 神に背き、悪魔と契約した者とされ、問答無用で処刑される。


「……魔法って、本当に悪いことなの?」


 思わず、レオンは口にしていた。

 自分でも驚いた。しかし、確かな疑問だった。

 中世だから受け入れられないとはいえ、本当に魔法が使えるなら凄いことな気がするし。


 けれど、少女は目を細め、ほんのわずかに笑った。


「へぇ……おまえ、面白いこと言うのね」


「いや、その……教会ではそう教わってるけど。俺は魔法、使えないし。使える人も見たことないし、悪いもんかどうか、正直よくわかんない」


 それが本音だった。

 半年、教会に仕えてきたが、魔法を使う者は見たことがない。

 ただ「悪である」とだけ叩き込まれてきた。

 疑問を持ったことすら、なかった。


 ──だって、俺には関係ないと思ってたから。


 少女は、どこか哀しげに目を伏せた。


「私の名はリリス。リリス・ヴァスター。魔女の血を引く者」


「……ヴァスターって、確か教会が魔女狩りで挙げた黒炎の魔女?」


「そう。昔は“森の民”と呼ばれてた。でも今は“魔女の末裔”として狩られてるわ。存在するだけで異端。……それが私」


 レオンは息をのんだ。

 リリスの瞳の奥に宿る炎のような輝きが、彼女の言葉に重さを与えていた。


 「それでも……私は生きたい。逃げたい。誰かに、そう……助けてほしいと……本当は、思ってる」


 微かに震える声。

 レオンは拳を握った。

 自分にできることなんてない。魔法も力も、地位もない。

 でも──この子は、自分に「助けて」と言った。

 こんな自分に助けを求めてくれたんだ。


 その瞬間、扉の向こうから怒号が響いた。


「おい! 誰だ、禁書庫に入ったのは!?」


 アルマン神父の声だ。見張りに気づかれたらしい。

 足音が近づいてくる。


 レオンは、一瞬、何もかもを捨てるような気持ちでリリスに向き直った。


「ここからの、脱出ルートある? 逃げよう。……俺が君を助ける」


 リリスの瞳が、大きく見開かれた。

 その奥に、かすかな“希望の火”が灯るのを、レオンは見た。

 

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ