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煉獄の魔女  作者: 古木花園
ニ章
13/29

温かな夢




──「リリス」

……聞こえた、気がした。誰の声?


草の匂い。夜の湿った空気。

小屋の中で眠っていたはずなのに、気づくと私は暗い森の中にいた。


炎が、灯っている。


けれど怖くなかった。

むしろ、懐かしいような、優しいような。


誰かが火の向こうに立っていた。

背中を向けているその人は、まるで──


「“あなたには希望があるの”」




その声は、夢の中で何度も聞いたことがある。

けれど、顔は、思い出せない。



---




女の人の指先から、静かに火が揺れていた。

まるで息をするように自然に、炎がそこに“生まれていた”。


──ああ、同じだ。

私が初めて魔法を使ったときと、同じ色の炎。

赤と黄色の炎


「怖がらないで。

 あなたの力は、壊すためじゃなく、守るためにある」




夢の中で、その人はそう言った。


私は小さくうなずいた。


……でも本当は、そんなふうに使えたことなんて、一度もない。

私の魔法は、いつも誰かを焼いてしまう。



---



夢の中で、私は炎に手を伸ばした。


指先に、熱が走る。


──痛くない。


「……名前を、教えて」




私はそう言った。

でも、その人は何も言わなかった。


ただ振り返って、笑った。


──あのとき、私ははっきり見た。


それは自分とよく似た顔だった。

でも、自分より少しだけ大人で、

少しだけ、悲しい目をしていた。



---




「っ……」


目が覚めると、頬に涙がついていた。


リネンのシーツ、木のきしむ音。

外はまだ暗く、子どもたちの寝息が聞こえる。


火の気配はなかった。

けれど、指先にまだ、あのぬくもりが残っていた。


「……母さん?」


呟いた言葉に、自分で驚いた。

私は母のことをほとんど、知らない。

誰からも教わってないし、名前も、顔も──記憶もない。


けれど、なぜかその一言だけが、唇からこぼれた。



--


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