Ⅳ
4
風聞研究会の部室には、紅茶の香りと焼き菓子の甘さがふんわりと漂っていた。
さとかが持ってきたスコーンとクッキーを囲みながら、各々の形でゆったりと寛いでいた。
「……はぁ〜〜〜、しあわせ〜〜〜……」
セレナがうっとりとした声で言った。
手のひらには、いちご型のアイシングクッキー。
「ふふん、今日のはね、アールグレイの茶葉入りスコーンに、ホワイトチョコを忍ばせてるのだよ」
「あまいのはホワイトチョコか、普段あんまり食べないんだけどねー」
まろはぶつぶつ小姑のように言いながらも、手はちゃんと次のクッキーへ伸びている。
「それで?セレナたんは退屈なんだって?」
「いやぁ退屈というか、せっかく風聞研究会!って名前してるのに、なーんにもしないのもなぁって……」
「あーわかるー、ただのお茶会だもんねこれ。」
角砂糖を入れながら笑うさとか。
「昔は心霊調査!とかやってたって聞くし面白そうだよね」
「でしょ!」
「無理無理、幽霊NGよまろさんは。」
「怖いんだぁ」「別に怖くはないですー」とこれまた幼稚なやり取りを眺めながら、セレナがぼそっと呟く。
「……依頼人でも来てくれたらなぁ」
紅茶を口に運びながらの、他意のない、ただの呟き。
「……来ない来ない、1年いるけど1度も来なかったし。
来られても何すりゃいいのさ」
ふてぶてしそうにスコーンを頬張るまろを見て、さとかが笑いながら答える。
「まぁこうやってのんびりするのもいいけど、ちょっと刺激足りないもんねぇ、セレナたんの気持ちもわかるよぉ」
「でしょ?それに謎を解明するって凄い面白そうじゃない!?甘いだけじゃなくてちょっとしたスパイスもやっぱひ欲しいって!」
「刺激もスパイスもいりません!シンプルが1ば……」
コン、コン
「………………」
一瞬、空気が止まる。
3人の手が、ピタリと止まった。
「……今、ノック……した?」
「……した、ね?」
セレナが目を見開いて、紅茶のカップをそっと置いた。
まろが眉を寄せながら、ゆっくりと立ち上がる。
「……どうせ変ないたずらじゃ?」
まろがドアノブに手をかけ、少しだけ開ける。
すると、そこには見知らぬ女の子が立っていた。制服の襟元をきちんと正した生徒。ブローチを見るに1年生。
手には封筒を握っている。
「す、すみません……ここ、風聞研究会、ですか?」
さとかとセレナの目が、ぱっと輝いた。
「「来たーーーーー!!!」」
部室の空気が、一気に“部活”へ切り替わる。
さとかはクッキーの皿を机に押しやり、セレナは椅子をを差し出しながらもう完全に“受け入れモード”。
まろだけが、大きなため息をついて天井を見上げる。
「……おいおい。マジで来るの?」
そして、部室に最初の依頼人が一歩、足を踏み入れた。