Ⅲ
3
まさかの新入生の入部から1ヶ月――
放課後の西陽が差し込む部室。
机の上には、いつもの紅茶。
窓の外からは、他の部活の元気な掛け声が聞こえる。
それを背に、セレナはくるくると椅子を回しながら、ふっと呟いた。
「んー、そろそろ……なんかしない?」
まろは、セレナが入れた紅茶を一口すすったところで動きを止めた。
「……なんかだぁ?」
眉間にくっきり皺を寄せて、明らかに面倒くさそう。
「だってさ、せっかく“風聞研究会”って、立派な名前が付いてるのにさ〜〜
なーーーんにもしてないよ? なーんにも!」
「その、“なーーーんにもしない”をする研究会なんですー、残念でしたー」
「でも……ちょっと退屈じゃない?」
「それを知ってて入ったのはあんたでしょうが……」
まろはカップを机に置いて、ため息をついた。
「……だいたい、放課後に来て紅茶飲んでダラダラする以外、何もしてないからな、うち」
「それって研究?研究なの?」
「しいて言えば人類の怠惰の研究だな」
「うわ、今の全然カッコよくなかった〜〜」
セレナはつまらなそうに机の上に肘をついた。
まろそんな彼女を見て、少し考える素振り。
「………まぁ、昔はなんかあったらしいよ? よくある七不思議とか、噂とかそういうのを確かめて、
“スクープだー!”ってテンションで校内新聞にしたりとか」
「七不思議!噂!」
ランランと目を輝かせて復唱するセレナの頭を小突きながら、まろはため息をつく。
「そんなのやったって誰も気にしないって……」
セレナはガタリと立ち上がってピシッと人差し指をまろの前に突き立てる。
「いいですかまろさん!!ここは風聞研究会なのに、風聞を追ってない!!」
「じゃあ、“紅茶とお喋り研究会”に改名するか?」
「だめです。全然可愛くないもん。」
「やかましいわ」
「でもやっぱり追うべきですよ!七不思議!噂!」
「やだよぉめんどくさいって〜」
幼稚な言い争いをしつつ、何をすればいいのか思案を潜らせてみるが、放課後に来てはのんびりと紅茶を嗜むことぐらいしかしてこなかったので、当然何も浮かばない。
ーーガラガラ
「いいじゃん!七不思議!噂!ドンと来いい!!」
大声でやってきたのはさとか。両手には小さなタッパー。
その中には、可愛らしいアイシングクッキーと、ふわふわのスコーンがぎっしり。
「はいっ!今日のおやつは“いちごとホワイトチョコの夢見セット”です!!
お茶の時間に間に合ってよかったー!」
「間に合ってよかったー!……じゃなくて、お前いつからいたの」
「セレナたんが退屈そうにしてるところから」
「序盤だ!」
「入ってくればよかったやん」
どこか嬉しそうな顔をしてさとかを見つめるセレナと、呆れた口調で返すまろ。
そんな2人を気にもせず
「あ、そだ!見てこれ〜〜〜!かわいくできたの!」
さとかはそのまま机に勢いよくスイーツを並べていく。
「……わぁ……すごい……可愛い……」
セレナが、そっとクッキーを手に取り、まるで宝石でも見るようにうっとり。
「これ……さとちが作ったの?」
「うん!昨日の夜おばあちゃん家で焼いたの!おばあちゃん寝てたけど!」
「ばぁちゃんゆっくり寝かせてやれよ」
小気味いいツッコミを入れるまろに、さとかは満足そうに笑うとクッキーを1つ手に取りグイグイと手渡す。
「まろー、食べてくれるでしょ?」
「甘すぎるのはちょっと」
「そう言うと思って甘さ控えめのも作ったよ♡ まろのために!」
「見越して作ってんのも気味悪いな」
「愛だよ愛♡」
まろは渋い顔をしながらも、クッキーをひとつ手に取り、口に運ぶ。
「……ん」
「ん?」
「……まあ、悪くはない」
「やった〜〜〜〜〜〜!!!まろ評価、来ました〜〜〜っ!!!」
もはやいつもの光景となった2人の様子を横目で見ながら、セレナは紅茶を口に含んだ。