表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/55

第九章 :火花散る活性炭切り替え作業


月末が近づき、工場では恒例の活性炭切り替え作業の準備が進んでいた。分離液ポンプの切り替えと並び、重要かつ神経を使う業務だ。藤枝健司はいつものおおらかな笑顔を崩さずに、現場の機器を点検しながら作業計画を頭の中で組み立てていた。一方、難波江は資料に目を通しながら、手順を厳密にチェックしていた。


「今回の作業、絶対にミスは許されねえぞ」と難波江は心の中で自分に言い聞かせた。


藤枝はそんな難波江の緊張感を鼻で笑うように思った。


「まあまあ、そんなにカリカリすんなって。俺の感覚と経験でバッチリやるからさ。」


「感覚だけじゃダメなんですよ。今回のミスは、許されないんです。」難波江は目を光らせた。


切り替え作業当日、現場は慌ただしい。作業着に身を包み、ヘルメットを締めた職員たちがテキパキと動く。藤枝は現場の中心で、機械のネジを締めたり配管を調整したりと、体を動かしていた。難波江は作業手順書を片手に、進捗を監視している。


しかし、藤枝の動きに見過ごせない雑さが混じり始めた。配管の接続を少し急ぎすぎたのか、活性炭の投入口のバルブが完全に閉まっていなかった。難波江はすぐに気づいたが、声をかけるタイミングを計っている。


「藤枝さん、バルブ……閉まってますか?」


藤枝は手を止めず、軽く笑いながら答えた。


「おう、大丈夫だって。見てろって。」


難波江は顔を曇らせたが、もう少し様子を見ようとした。その時、突然作業場の向こうでバシャッという音と共に、活性炭を含んだ液体が噴き出し、床にこぼれ落ちた。


「なんだ、今の!?」藤枝が慌てて駆け寄る。


液体はすぐに床を濡らし、作業の流れを止めた。難波江は怒りを抑えきれずに大声を上げる。


「おい、バルブをきちんと閉めてなかっただろ!こんな初歩的なミス、ありえない!」


藤枝は歯を食いしばりながらも、必死に言い訳を探す。


「いや、そんなことは……ちょっと見落としただけだ。すぐに片付けるから……」


難波江は声を荒げる。


「片付ければいいってもんじゃない。これで機械が壊れたらどうするんだ。責任取れるのか!」


その場にいた他の職員もざわつき、緊迫した空気が広がった。


休憩室に戻ると、所長が重い表情で二人を呼び出した。


「藤枝、難波江、今回のミスは痛い。藤枝、整備は頼むから確実にやってくれ。難波江、お前も現場の指導はきついが、もう少しフォローしてやれ。」


藤枝は黙ってうなずいた。難波江は悔しさをにじませながらも、言葉を返した。


「所長、俺はちゃんとやってます。藤枝が雑すぎるんです。」


所長は溜息をつき、肩を揉むように手を動かした。


「二人とも、ここでケンカしても始まらん。お互いを認め合って、職場のために力を合わせろ。」


しかし、その夜、難波江は一人でメモ帳にこう書いた。


『藤枝のせいで現場の信用が揺らいだ。絶対に負けられない。俺が所長になる。』


翌日から職場の空気はさらにピリピリし、藤枝の冗談もどこかぎこちなくなった。難波江はますます自己主張を強め、現場を引っ張る姿勢を見せる。


若手職員の間では、


「藤枝さんは頼りになるけど、最近元気がないな。」


「難波江さんは怖いけど、仕事はきっちりしてるからな。」


と評判が分かれていた。


この緊張感の中、また別の小さなミスが職場内で波紋を呼ぶのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ