87 暗躍する〝影〟
今回はちょいちょい出てくる謎のシカイ族に焦点を当てた3人称視点です。
具体的には47話、56話にすこーしだけ出てきました。
「この世界を創造した神は、なぜ人々を愛しているにも関わらず、差別を、飢餓を、憎しみを、魔物による脅威を人類に与えたのだろうか?」
とあるダンジョンの最深部。
既にダンジョンの主であるボスは屍となっており、物静かな玄室の奥――持ち込んだ玉座に座る黒髪黒目の男が、独り言ちる。
「神が人類に与えた試練だから? 否――神はただ、人類が脅威に挑む姿を見て楽しんでいるに過ぎない。奴隷に落とした剣闘士同士を戦わせ見世物として楽しむように、カゴの中に閉じ込め、獲物を捕食する虫を観察するように――神は楽しんでいるんだよ。我々人類が苦しむ姿を」
玉座の肘掛けに肘をつき、拳で頬を支えながら、男は虚空に向かって喋り続ける。
「実に滑稽だろうね。神に救いの手を求める人類の姿を見て。我々が救いを求める神こそが、我々の命を脅かす全ての元凶なのだから」
あるいは今、彼が話題に出している――神へ語りかけているのかもしれない。
「もしボクが世界を創造しなおすことが出来るなら、きっと差別も飢餓も争いもない、平穏な世界を作ると誓おう。幼少期に苦労して育った母親が、己の子供には同じ思いをさせまいと願うように」
――コツコツコツ。
その時、何者かが玄室へ近づいてくる足音がする。
男は警戒することなく、むしろ待ってましたと言わんばかりに、玄室の扉を見つめた。
――キィ。
「…………」
果たして――入ってきたのは魔術師のローブで顔を隠した少女。
大規模ダンジョン崩壊の際、シドが助けた冒険者だった。
「お帰り。待っていたよ。その可愛い顔を見せておくれ――ルゥ」
「…………」
少女はフードを外す。
露わになる褐色の肌、紫色の髪、冷たい瞳。
元勇者パーティのアサシン――ルゥルゥであった。
「彼に〝徴〟は付けられたかな?」
「…………」
コクン――彼女は首を縦に振る。
「素晴らしい。さぁおいで、ルゥ」
「…………」
ルゥルゥは玉座の前に跪き、シカイ族の男の足に手を置いてしなだれる。
男は無骨で大きな手を、ルゥルゥの頭に乗せ、ゆっくりと撫でる。
「…………」
ルゥルゥの普段の氷のような無表情は氷塊し、親猫に甘える子猫のように、気持ちよさげに目を細めるのであった。
「だから待っていろ。お前の創ったこの世界――真っ先に上がるのはこの僕だ」
〈第2章――KNT's of the Sword and Balance――完〉
〈第3章――In the abyssal depths of the boundless SHADOW――に続く〉
これにて2章完結です。
「いや、《聖痕の騎士団》との戦い全然終わってないし、なんなら1人しか倒せてねぇのに何終わった雰囲気出してるんだよ!」
と思った読者の方――全くもって仰る通りです。
でもほら、丁度大きなイベント(大規模ダンジョン崩壊)が消化され、2章もだいたい文庫本1冊分(10万文字程度)の分量になって区切りが良いので、章も区切ることにしました。
ですので「1章面白かったけど2章は思ってたのと違うな……」と思いながらも、なんだかんだで読み進めて下さった優しい読者の方、見切りをつけるには丁度良いタイミングかと思います(2巻切りしたと思えば……ね?)。
あまりにも作者側が不利になるような甘言ですけど、私も好みに合わなくなってきた小説を惰性で読み進めてしまう事があるので、読者目線に立ったアナウンスをと思いまして……(可能ならこのまま読み進めて欲しいけど!)
次章では《聖痕の騎士団》との決着を付けますので、2章の雰囲気も楽しんで頂けた方は、是非とも3章もお付き合い下さいますと幸いです。
ちょくちょく暗躍していた、もう1人のシカイ族の正体も判明しますので!!
それから、ブックマークや評価★、感想を下さる読者の方々のおかげで、モチベーションが維持できて約20万文字もの文量を書き進めることが出来ました! ありがとうございます!
もしここままお読み頂いて、「ブクマや評価★つけるのはもう少し様子見するか」と思っている読者の方、そろそろブクマ&評価ボタン押してくださっても良いのではないでしょうか?←卑しい催促
既にブクマや評価★を入れて下さった読者の方々には、改めてお礼申し上げます。
3章も近日中に投稿予定です。
今後とも『最強クラス【影霊術師】に覚醒し、俺を捨て駒にした勇者パーティと世界の全てに復讐する』をよろしくお願いいたします。




