81 経験値ボーナスタイム
今回からシド視点に戻ります。
『キェェェェェッ!!』
先日A級ダンジョン【鳶翼殿】で仲間にしたばかりの、影霊グリフォンが天を舞いながら甲高く鳴く。
グリフォン背に乗っている俺は、王都の城壁目の前まで迫っている魔物の群れを上空から俯瞰していた。
「凄い量の魔物だ……マジで王都周辺のダンジョンが余さず崩壊してるんじゃねぇか?」
『よもやよもや――前代未聞の大惨事じゃ』
ヴァナルガンドの空間転移で、アーディオンから瞬時に王都前までワープしたが、既にそこは戦場と化していた。
リンをヴァナルガンドの体内の預け、俺は即座に影霊を召喚。
『魔物を殺せ。しかし決して人間を傷つけるな』という命令を下したのであった。
「む……ありゃやべェな――エカルラート、《忌緋月》借りるぜ」
グリフォンの上からだと戦場がよく観察出来る。
魔物がローブを着た魔術師に、まさに攻撃しようとしているのを発見し、俺はグリフォンから飛び降りる。
「《衂滅月斬》」
空中で落下しながら、紅色の刀身を腕で挟んで引き――血を纏わせる。
落下で得たエネルギーも相乗させ、渾身の一撃を魔物に叩き込む!
――斬ッ!
『ギャアアアアアッ!?!?』
「大丈夫か!?」
「…………(コクコク)」
中心線を境に2枚に下ろされる魔物。
返り血を浴びながら、魔物に狙われていた魔術師に手を伸ばす。
魔術師は恐怖で声も出ないのか、震えながら俺の手を取った。
「まだ戦えそうなら戦え。無理そうなら後方で休んでろ」
特に外傷がないのを確認してから、俺はそのまま忌緋月を持ったまま、魔物の群れに斬り込んでいく。
「経験値のボーナスタイムだ!」
『冒険者を助けたと思えば、今度は魔物を経験値扱い。偽善的なのか偽悪的なのか分からん奴じゃな』
「(うっせ)」
照れ隠しだよ。
――レベルがあがりました。
――レベル106 → 107
影霊が魔物を倒していくことで、レベルがぐんぐん上がっていく。
昨日までレベル104だったのに、今日だけで3も上がっている。
レベル3桁になり、レベルアップに必要な経験値が増幅して伸び悩んでいたので、久々にサクサクとレベルが上がっていく感覚が心地いい。
――斬!
――斬!
――斬斬斬斬!
大型のタフそうな魔物には忌緋月を使い、無数の雑魚はグリフォンを倒した際に入手した隼刃の双剣を使い、戦場を駆け抜け、すれ違いざまに撫で斬りにしていく。
「とりあえずこんなもんか――影霊領域――影霊操術」
――MP 1590/2350
混戦となっている戦場で魔物を切り伏せ、冒険者達が再度戦線を構築して安定してきたのを確認する。
俺は影を直径100メートルまで伸ばし、魔物の死体から影をまとめて抽出する。
新たに使役した影霊にも、同様に『魔物を殺し、人間を傷つけない』という命令を下すのだった。
***
その後も俺は、ヴァナルガンドの空間転移で戦域を点々と移動しながら、影霊の召喚、影霊の抽出を繰り返した。
爆発的に増えていく影霊により、王都の目の前まで迫っていた魔物達を、数100メートル後方まで押し上げることに成功する。
特に王都の東側と南側の戦域は酷い有様だった。
ベテラン冒険者は他の戦域を担当しているようで、ベテランには至らない中堅や、ルーキーばかりで今にも魔物が結界に触れる直前といった有様であったので、中心的にサポートに回った。
最初は影霊の存在に困惑していた冒険者達であったが、害がないことに気付いたようで、影霊と協力しながら魔物を押し返している。
ぶっちゃけ敵と認識されて攻撃されても、無限に復活させられるから問題はないのだが。
逆に西側には殆ど足を運んでいない。
あそこは王宮騎士団や聖騎士が担当しているエリアで、俺の面が完全に割れているから、余計ないざこざを起こさないために、一瞬だけ転移して、影霊操術で魔物を使役したら速攻で再転移していた。
だが聖騎士の奴らもちゃっかりしており、影霊の姿を見て抹殺対象が王都に来ているのを確信していながら、指揮官は影霊を利用するのを前提とした戦術に切り替えてうまく魔物達を捌いていた。
『本当都合のいい奴らじゃな』
「ま、この状況下じゃ使えるもんはなんでも使わないと切り抜けられねェのも確かだしな」
また王都北側も、俺が直接魔物を討伐することは殆どなかった。
あそこは強い魔物が多いエリアだったが、指揮を取っているのが人類最強だった。
ぶっちゃけ影霊がいなくてもなんとかなっていたのではないかと思うくらい、安定した戦いを繰り広げていた。
――レベルが上がりました。
――レベル109 → 110
ウィンドウがレベルアップを告げる。
今日だけで6も上がった。
普通の冒険者が、104から110までレベルを上げるとしたら、恐らく数年はかかるだろう。
俺がいくら魔物を倒して善行を積もうが、王宮は俺の指名手配を取り下げることはないだろう。
であれば、ここで経験値と影霊を大量に獲得できるのは僥倖と言えた。
「この前はミイラ野郎に惨敗だったからな……でも、今度は負けねぇ」
一気にレベルが上がったので、以前のステータスと比較してみる。
名前:シド
クラス:影霊術師
レベル:104 → 110
HP:2080 → 2200
MP:2250 → 2420
筋力:364 → 385
防御:313 → 330
速力:394 → 420
器用:415 → 440
魔力:227 → 275
運値:216 → 230
「よし、レベルもかなり上がったし、各戦域もほぼほぼ片付いてきたな」
グリフォンで王都を旋回しながら、地上の様子を確認する。
「となると後は…………ラスボスを倒すだけだな」
大規模ダンジョン崩壊――その中で最も等級の高いであろう魔物に目を向ける。
それは王都北側の戦域におり、ここからでもその姿がよく見えた。
目測だが――全長50メートルを超すであろう山のような巨体。
2足歩行の人型――だがあまりにもデカすぎる巨人型の魔物。
「エカルラート――あれの名前、分かるか?」
『恐らくタイタンじゃな。A級ダンジョンのボス――しかも限りなくS級に近い強さを持っておる。さしずめ特A級といった所よな』
「んじゃ――メインディッシュを貰いに行くか」
俺はグリフォンを操り、大型巨人を目指して天空を疾駆するのであった。
フロウ「アニス様、ご相談があるのですが……?」
アニス「どうしたんスかフローレンスちゃん? かわい子ちゃんのお願いならなんでも聞いちゃうっスよ!」
フロウ「えと……日頃お世話になっているシーナ様になにか贈り物を差し上げたいのですが、何を渡せばいいのか分からず……」
アニス「それならとっておきの案があるっスよ! シーナ先輩、堅物そうに見えてフローレンスちゃんに対しては激甘っスからね――ごにょごにょ」
フロウ「ふぇっ/// ほ、本当にそれだけでいいんですか!?」
アニス「大丈夫っス! 絶対うまくいくっス!」
***
フロウ「シーナ様、その……シーナと同じ髪型にしてみたのですが、いかがでしょうか?」
シーナ「きゃ、きゃわ〜〜〜〜♥♥♥」(可愛さのあまり気絶するシーナ)
アニス「ほらね、うまく行ったでしょ?」




