67 隠れ家の訪問者
質問来てた!
>(66話にて)あれだけ砂塵の凄さを描写したのに、回復魔法と防護魔法だけで最奥まで行っちゃうのは無理がないですか?
結論!
>無理があります!
【聖砂の錆塵】は聖属性攻撃であり、聖職者には効きにくいのですが、だとしても聖職者だろうと長時間晒されると塵になって死にます。
ですが、実はフロウは腐敗の祝福に強い耐性を持っています。
フロウの母親フランシスは、日常的にカイネの傷を治していたので、腐敗にある程度の耐性がつき、それがフロウに遺伝したので、生まれつき腐敗の耐性を持っていたのです。
↑これはご指摘のコメントを頂いてから必死に理屈をこねくりまわして考えた新設定です。指摘される前は「勢いで誤魔化せるやろ」と思ってそんな設定はありませんでした(涙)
(本編にも若干の加筆をしました)
今後も気になる点などございましたら、感想等に書き込んで下さると幸いです。
たまに後出しじゃんけんのように、指摘された後に新設定を考えますが許してください。
読者様のアドバイスで作品の完成度が上がっていくと、ポジティブに捉えて頂けると助かります。
***
今回から再びシド視点に戻ります。
《聖痕之肆》――カイネが自らの命と引き換えに発動した【聖砂の錆塵】。
その傷が癒えた頃には、既に日が傾きかけていた。
「精神的な疲れが残ってるが、肉体の方は完全回復だな」
ヴァナルガンドにゴブリンの森にある隠れ家まで送り届けて貰った俺は、数時間振りに日光を浴びながら大きく伸びをした。
一方、エカルラートの方はまだ完治とは言い難い。
曰く――聖遺物による攻撃は聖属性であり、魔物に特攻ダメージを与えるため俺よりも重症――とのことだ。
隠れ家で待つリンに心配させないために外見を優先して復元したが、中身の方はまだぐちゃぐちゃらしい。
『疲れたのゥ……今日は血抜きしていない新鮮な獣肉が食べたい気分じゃ……』
「それに関しては同意だ。影霊に野生動物を狩ってこさせるか」
ログハウスの前の花壇を一瞥する。
リンの丁寧な世話のかいもあり、花壇には綺麗な花が大量に咲いていた。
畑の方も、成長の早いものは既に青い実をつけており、もう1週間もすれば収穫できるとのことだ。
「ただいま――リン、帰ったぞ」
「おかえりなさいませっ! ご主人様」
この家には廊下がない。
玄関と直結している談話室――その椅子に座っていたリンは立ち上がり、俺を出迎える。
そして――リンの向かいに座っている――見おぼえないない客もまた、俺に手を振った。
「どーも――お邪魔してまっス、シドお兄さん」
…………は?
…………誰?
「『ッ!!』」
俺と、影の中にいるエカルラートは即座に厳戒態勢をとる。
赤髪の十代後半と思わしき少女。
白い法衣を纏っており、ここ最近見る機会の増えた――剣と天秤のエンブレム。
「(隠れ家の場所が聖教会に割れているだと!?)」
『そのようじゃな……』
「(護衛はなにやってんだ……!?)」
――ゴブリンロード HP0 【消滅】
視界の片隅に出現したウィンドウが、ゴブリンロードが消滅していることを告げる。
この森にゴブリンロードを倒せる魔物は存在しない。
十中八九――この赤毛のガキにヤられている。
「リン! こっちに来い!」
「ご主人様? どうかなさいました……?」
募る危機感とは裏腹に、リンはきょとんと不思議そうな顔をしている。
俺が帰宅するまで仲良さげに会話していたみたいだ。
赤毛の少女に対して警戒心を全く抱いていない。
『シド――あの聖職者には一度会ったことがある。リンが王都で買い出しに出た時、悪漢に絡まれたことがあっての、そこを助けたのがあの小娘じゃ』
「その……ご主人様の許可を取らずに知らない方を招き入れてしまい申し訳ございません。ただ、アニス様は森で道に迷ってしまったようでして、丁度この小屋を見つけたらしくおもてなししている最中でして……あと、アニス様は以前王都で危ないところを助けて頂いたことがあって、恩があるのです」
なるほど……そういう体でリンの警戒を解いて取り入ったってことか。
かつて王宮騎士団に王都の屋敷が襲撃された時は、力尽くでリンを人質に取られたが、リンに人質の自覚がないままに、生殺与奪の権を握られると非常にやり辛い。
強引にコイツに攻撃をすれば、リンにあらぬ誤解を抱かせかねない。
「そんな警戒しないでくださいっス――シドお兄さん」
赤毛女――アニスと言うらしい――は椅子から立ち上がると、俺に接近する。
「外で話さないっスか? 2人きりで」
「……いいだろう」
リンに「家の中で大人しくしていろ」と釘を刺してから、アニスと共に外に出る。
こいつはゴブリンロードを1人で倒した――見かけ以上に強い。
【影霊強化】で2段階強化を施したゴブリンロードの総合戦闘力は5000。
初期のミノタウロスの総合戦闘力に匹敵する。
「まずは自己紹介っスね」
アニスは夕焼けを背にしながら(さりげなく逆行になる立ち位置を取られた)――あどけない笑みを浮かべながら前口上を告げる。
「お察しの通り、ウチは《聖痕の騎士団》が《聖痕之陸》――アニス・レッドビーっス。乙女の子胎を剣の贄に、赤子の祈りを天秤に掲げ――影霊術師を惨殺するっス――と、いうのは建前っス」
「は?」
アニスは纏っていた覇気を消すと、おちゃらけるように両手を上げる。
参ったと――降参するように。
「ウチは《聖痕之弐》に命令されてシドお兄さんの命取りに来たんスけど、ぶっちゃけやる気ないんスよねェ。お兄さんがここにいるってことは、カイネ先輩は任務に失敗して死んだってことスよね? 序列5位のセルヴァ先輩も4位のカイネ先輩も勝てない相手に、6位のウチが1人で勝てる訳ないって話っスよ――17歳で殉職なんてサラサラごめんっス」
「リンを人質にするなりして、優位を取れたはずだぞ」
「勿論上司にはそうするよう指示されたっスよ? でも、お兄さんはその程度のアドバンテージで勝てる相手じゃないスよね? そ・れ・に――リンリンちゃんみたいな、かわい子ちゃんに嫌われたくないんで――ウチ」
飄々とした態度故、真意が掴み切れない。
シカイ族を見た瞬間、目の色を変えて嫌悪剥き出しに襲いかかってくる、今まで対峙してきた他の《聖痕の騎士団》とは、明らかにタイプの違う人間だ。
「そんな訳でお兄さん、提案があります――ウチのこと、見逃してくれないっスか?」




