64 聖砂の錆塵
前回のあらすじ
シドとカイネは激戦を繰り広げるも、追い詰められるシド。
タイマンなら影霊を使わないというポリシーを捨て、影霊を召喚するのであった。
赤い炎のように揺らめく無数の影霊の瞳が、カイネを睨みつける。
「そうだったな……お前は……【影霊術師】……たった1人で軍隊に匹敵する戦力を持つエクストラクラス……今までのやり取りは全て茶番だったという訳か……ごほッ!」
「手を抜いてた訳じゃねェんだ――しょうもねぇこだわりみたいなモンだよ」
「この……バケモンが……だが、貴様の能力は既に承知の上だ……全くもって問題ない……シカイ族は一匹残らず鏖殺する……俺が、必ず、この手で……ッッ!!」
カイネはゆっくりと立ち上がるも、俺同様に満身創痍。
立っているだけで限界だろう。
「お前がシカイ族にどれだけ強い恨みがあるかは知らねェが、もうここまでだ」
「舐めるなよ――ラノルス!!」
なぜここでわざわざ苗字の方で呼ぶ?
変な違和感を覚えたものも――直後にカイネのとった行動でそれどころではなくなる。
――ザクッ!
「なッ!? お前……自分で……ッ!?」
あろうことかカイネは、包帯を操って鋸鉈を手繰り寄せると――その刃を自分の心臓に突き立てた!
「自害かッ!?」
「【其は邪を断ち切る錆びた刃】【魔を斬罪せし血染めの腕】【闇より濁る赤濁の鋸歯】――」
カイネを中心に砂塵のようなものが巻きあがり、聖遺物――《朽ち移し》が鈍く輝きだす。
そしてあの詠唱――自害ではない!
思い出すのはかつてヴァナルガンドと戦った時のこと。
共闘することになったフロウは、《聖痕之壱》――オズワルド・ワイデンライヒの遺体から聖遺物の鎖を取り出して、その真の力を解放してヴァナルガンドの巨体を縛り上げた。
「お前ら! 今すぐ奴を殺せ!」
《朽ち移し》も聖遺物。
詠唱を唱えることで必殺技が発動するのは明白!
『ブルルルルッ!』
『~~~~♪』
『――――』
『ヒヒ――――ンッ!』
『グルルルルルッ!』
『ギギャ――――ッ!』
「――【主よ我を試し給え】【捧げるは腐した果実】【黴た聖餅】【不変の信仰】――」
影霊はカイネ目掛けて飛び掛かる。
だが――奴を中心に巻き起こる砂塵の勢いが増し、ミノタウロスの突進さえも吹き飛ばす程であった。
「――【朽ちた心臓を剣の贄に】【朽ちぬ祈りを天秤に】――」
『~~~~ッッ!!!!』
ウィンディーネ影霊が圧縮して水圧を高めた水属性魔法を放出する。
しかしカイネはタイミングよく跳躍して回避。
その間も詠唱は途切れることなく紡がれる。
「嘘だろ……全身ボロボロで心臓まで負傷してんだぞ……!?」
「【祈り叶いし時】【魔を祓う聖なる嵐とならん】――――【聖砂の錆塵】」
着地と同時に――詠唱が完了する。
カイネを中心に発生している竜巻状の砂塵――その規模が急速に拡大する!
『ブルガッ!?』
『~~~~ッ!?』
『――――ッ!?』
『ヒヒ――――ンッ!?』
『グギャ!?』
『ギギャッ!?』
ハリケーンの如く襲来した錆の嵐。
巻き込まれた影霊は一瞬で崩壊し、塵となっていく。
恐らく砂嵐の砂1つ1つが《朽ち移し》と同様に、触れたものを腐敗させる効力を持っている。
しかもその出力は《朽ち移し》の比ではなく、影霊さえも瞬時に塵に還す。
「ッ!?」
全てを朽ちさせる裁きの嵐が迫り――俺の全身を包み込む――
「シドッ!!!!」
「なッ――エカルラート!?!?」
――その直前。
影の中から出てきたエカルラートが俺を抱きしめて、錆嵐から俺を庇う。
恐ろしいもので、S級ダンジョンのラスボスである最強の魔物であるエカルラートの肉体さえもが、砂に叩かれジリジリと消滅していく。
真紅のドレスが、白い肌が――ボロボロと朽ちていき、肉体がどんどんなくなっていく。
あのエカルラートでさえ数秒耐えるのが精一杯の破壊力。
「お、おぬしに死なれては困るのじゃ……妾が、盾になる……早く……逃げよ……」
「馬鹿野郎が――ヴァナルガンドッ!!」
『ワオンッ!』
足元から出現したヴァナルガンドが俺とエカルラートを口の中に収納し、砂塵に晒されながらも再び異空間に潜る。
間一髪――俺達はダンジョンから逃げ出すことに成功したのであった。
***
――ヴァナルガンドの中。
「シド……生きておるか……?」
「それは……こっちのセリフだ……ボケ」
「まだボケとらんわ……ピチピチじゃ……」
「嘘つけボロボロだぞお前……」
四方が闇色の空間で包まれた異空間。
俺とエカルラートは並んで床に寝転がりながらも、辛うじて生きていた。
俺を庇ったエカルラートの損傷は酷いもので、肉体の7割くらいが消滅している。
金糸の如き艶やかな髪も随分と短くなっており、絶世の美貌も半分くらいなくなっていて断面はグロテスクだ。
「無茶すんじゃねェよ……お前は影霊じゃないんだから、一度消滅したら復活させられねェんだぞ……」
「それを言うたら……シドが死んだら【死霊操術】で動いている妾も死ぬのじゃ……おぬしに死なれるくらいなら無茶もするわい……」
「でも……おかげで助かった……すまない」
「気にするでない――妾もシドも、こうして休んでおればあと数時間もすれば回復する」
カイネとの戦いを振り返る。
俺はあいつの鍛え上げられた肉体に敗北を認め――影霊を召喚せざるを得ない状況にまで追い込まれた。
だがあいつは無数の影霊を全て返り討ちにし、エカルラートさえも瀕死の状態にした。
試合に負けて勝負に勝ったなんてもんじゃない――正真正銘の完全敗北。
こうして生きているだけでも奇跡なくらいだ。
あと数秒ヴァナルガンドの転移が遅れていたら、全滅していただろう。
「ヴァナルガンド……お前は平気か?」
『キュウン……ッ』
「お前にも無茶をさせたな……」
闇の中からヴァナルガンドの頭部が出てくる。
凛々しい巨狼の顔が爛れており、随分と痛そうだ。
ヴァナルガンドが地上に顕現していた時間は1秒にも満たなかったはずなのに……。
「これ……治せるのか?」
ヴァナルガンドも影霊ではなく【死霊操術】で動いている。
影霊と違ってMPを使えば元通りになる訳ではない。
「ヴァナルガンドも妾達程ではないが、再生能力を持っておる。シドが快復したら、刃物で損傷個所を削ぎ取ってやればいずれ元に戻るはずじゃ」
「だそうだ……悪いけどもうしばらく待っててくれ」
『ワンッ』
俺、エカルラート、ヴァナルガンドは満身創痍で横になり、安静にして傷が癒えるのをじっと待つ。
――HP271/2060
――HP272/2060
――HP273/2060
――HP274/2060
まだ随分と時間がかかりそうだ。
「カイネの方は……どうなったんだ……?」
「恐らくあれは自身の命を引き換えに発動させる最終手段。もうこの世にはおらんだろうな」
「ちッ……勝ち逃げかよ……」
心臓に鋸鉈ぶっ刺してたもんな……。
自分の命と引き換えなら、ふざけた破壊力なのも納得できる。
だがこれで《聖痕の騎士団》は更に1人減って残り4人。
序列を示す数字で残りを数えれば――《聖痕之弐》《聖痕之参》《聖痕之陸》《聖痕之漆》。
カイネの序列は《聖痕之肆》。
更に強いのがあと2人もいるのか……厳しい戦いになりそうだ。
俺は痛む身体に鞭打って、右腕を持ち上げる。
「畜生……負けた……悔しいッ! 随分強くなったと思っていたが、上には上がいるもんだな……だったら、更に強くなるまでだ……ッ!」
敗北を糧に更なる覚悟を胸に秘め、今後更に苛烈化するであろう聖教会との戦いに身を引き締めるのであった。
質問来てた!
>なんで1人ずつ来るんだ? 仲悪いのかな?
結論!
仲悪いからです。
マジレスすると前回の《聖痕之伍》セルヴァの時は、毒霧に仲間を巻き込まないため。
今回の《聖痕之肆》カイネの時も、同じく【聖砂の錆塵】に仲間を巻き込まないためです。
ちなみに【聖砂の錆塵】は人体を塵単位で分解するので、シドもエカルラートも長時間(というか数秒)晒されると不死だろうと死にます。
ドラゴンボールの魔人ブウみたいな感じで、再生できないくらい細かく分解されると死んでしまいます。
それから仲悪いのは本当です。
会議シーンいつもギスギスしてますもんね。
今後も質問・疑問等あればお気軽にお尋ね下さると幸いです。




