62 ゾンビVSミイラ
前回のあらすじ
いつものようにダンジョンを攻略していたシドの前に、聖教会より新たな刺客――《聖痕之肆》カイネ・カイウェルが襲いかかってきたのであった。
《聖痕之肆》――カイネ・カイウェルは挨拶もそこそこに疾駆。
10メートル以上あった2人の距離を一瞬で縮めると、巨大な鋸鉈を振りかざす!
――キィン!
「早い上に重めェ……ッ!」」
なんとか長剣で受け止めるも、ビリビリと腕が痺れる。
奴は自らを《聖痕之肆》と名乗った。
数字は序列を現し、総合的な戦闘能力の指標となる。
先月倒したセルヴァは《聖痕之伍》――奴よりも強いと判断していいだろう。
――キィン! キィン! キィン!
幾度――刃を交える。
腕力に物を言わせて力任せに振っている訳ではなさそうだ。
『(筋力と技量を持ち合わせた歴戦の戦士と言ったところよな? さて、どうするつもりじゃシド? この前の様な狸寝入りは使えそうにないぞ?)』
「だが――こっちは不死身だぜ?」
――ザクッ!
「……ッ!?」
俺は剣を握っていない方の腕を突き出し、カイネの鋸鉈を受け止める。
ギザギザの刃はロングコート、皮膚、肉を切り裂くも――切断されることなく骨で止まる。
「(思った通り――いかに筋力のステータスが高くとも、あんな形状の刃では腕を切断するには至らない)」
不死となり痛みに慣れた俺にとって、刃が骨にまで到達する程度――大した苦痛ではない。
「これでどうだ!」
――斬ッ!
長剣でガラ空きの胴に斬撃を繰り出す――しかし、そこでカイネは予想外の行動を取る。
「この程度か?」
「ッ!?」
カイネは武器を握っていない方の拳を握り、長剣の腹を叩いて弾くと――そのまま人差し指と中指を立てて俺の眼球に突き刺した!!
――グチュ!
「がッ!?」
更に鋸が角材を削り切るように、俺の骨に当てている鋸鉈を思いっきり引き抜く。
――ギリギリギリギリ!
「痛ッてェッ!?!?」
――HP1860/2060
目潰しと骨が削られる痛みに絶叫を上げながら、バックステップで距離を取る。
「はぁ……はぁ……くそ、目が見えねェ」
『クハハ――痛みには慣れてるとドヤ顔で言い放った後に、随分と情けのない悲鳴をあげるではないか?』
「うっせぇ。流石の俺も眼球潰されて骨削られる痛みには慣れてねェよ」
特に骨が削られる痛みは筆舌に尽くしがたい。
鋭い刃物で綺麗に切断された方が苦痛は少ないだろう。
「不死とはいえ痛覚は残っている様だな。不死身の肉体となったことを後悔させる程の痛みを与えてやる――覚悟しろ」
「その前にお前のHPが残ってればの話だがな」
いくら痛みに特化した形状の武器で俺の意思を挫こうとしても、そう簡単に根を上げるつもりはない。
しかし――カイネに傷つけられた肉体に違和感を覚える。
――HP1861/2060
――HP1862/2060
――HP1863/2060
――HP1864/2060
「(再生能力が落ちてる……?)」
普段であれば既に全快しているであろうダメージが、殆ど治っていない。
『あの聖騎士――随分と厄介な武器を使っておるのゥ』
影の中でエカルラートが忌々しげにごちる
どうやらあの鋸状の武器が、始祖の吸血鬼の血がもたらす再生能力に悪影響を与えているらしい。
『あれは聖遺物の1つ――《朽ち移し》』
「(聖遺物……)」
聖教会が保有する強力なアイテムの総称。
それはヴァナルガンドの巨躯を完全に拘束する鎖や、心臓に刺さればあのエカルラートさえ殺す杭など多岐に渡るものも、強力な効力を秘めていることに変わりはない。
『あの刃で刻まれた物質は急速に劣化して朽ちる。金属は錆び、肉は腐り、植物は枯れ――例外なく朽ちていく』
手元の長剣を見れば、数度刃を交えただけだというのに、まるで数年の年月が経過したかのように錆が浮いている。
しかもその錆は徐々に広がり――ボロッと半ばから折れた。
『じゃが《朽ち移し》の腐敗の祝福は使用者さえも蝕む。やがて刃だけでなく使用者の肉体にも腐敗の権能が宿り――自らの肉体さえも朽ちさせる。無限に続く腐敗の苦痛に苛まれることとなる』
鋸鉈――《朽ち移し》に触れた腕と剣だけでなく、指で潰された眼球まで再生しないのはそういうことか。
奴が触れたものは全て朽ち果て――不死の再生能力が追いつかなくなる。
『とはいえ、妾の血の呪いはあの程度の祝福に負けはせぬ。数時間もすりゃ完全に浄化され元の再生能力を取り戻すじゃろう』
逆に言えば、切られた場所は数時間は治癒されないという事かよ……。
相性は最悪って所か。
誰だよ相性は良いとか言った奴…………俺か。
そもそも腐敗の能力と相性のいい性質が存在するのか疑問だが。
「(でも《朽ち移し》の使用者も腐敗に苦痛に苛まれるっつう事は……)」
『奴の肉体は殆どが腐っておる。包帯の下の皮膚は焼け爛れ、常に激痛が走り続け、到底長生きできる身体ではない』
「(呪われた装備じゃねェか。聖遺物の線引きどうなってんだよ)」
どのへんに“聖”の属性があるのか誰か教えてくれ。
カイネの包帯や革製の装備が朽ちていないのを見るに、恐らくはあいつ用に特注された腐敗に強い付与魔術が施されているのだろう。
触れたもの全てを腐らせ、自らの肉体さえも蝕む聖遺物。
とてもじゃないが使おうとする奴の正気を疑う。
だが――カイネは苦痛の道を選んだ。
神への信仰がそうさせたのだとしたら、とんだ狂信者だ。
「どうした? いくら時間を稼いでも、その傷は治らんぞ」
「みてぇだな……でも――これならどうだ?」
「……むッ!?」
影からデュラハンの長剣を召喚する。
地面から這い出る黒い長剣を左手で引き抜いて、腐敗に侵された右腕を肩口から切断する。
切断された傷口から無傷の腕が生えてくる。
今度は眼窩に刃を滑り込ませて左目をえぐり取る。
「いッッッッ――――てェェェェッッッッ!?!?!?!?」
だがその痛みも功を成し、新しい左目が再生。
クリアな視界がカイネの姿を鮮明に捉える。
――HP2060/2060
HPも完全に回復した。
「(思った通りだ)」
《朽ち移し》で攻撃された箇所は再生しないが、負傷箇所を丸ごと切り落とせば、通常の損傷扱いとなり本来の再生スピードで欠損箇所が再生する。
問題は負傷箇所を自分で削り落とすのがめちゃくちゃ痛いという点だ。
不死の肉体に慣れきって、自分で自分の肉を削ぎ落す奇行に走る。
俺も大概――聖教会のことをバカに出来ないくらい、狂ってやがる。
「さて、これで振り出しだぜ――次はどうする、ミイラ野郎」
「何度でも斬り削るまでだ――ゾンビ野郎」




