06 ステータスウィンドウと影霊術師
前回のあらすじ
ミノタウロスから逃げた先はダンジョンの最奥部だった。
シドは真紅の吸血姫の遺体に渾身のネクロマンスを発動させるが……。
目をつむり、歯を食いしばる。
気分はギロチンにかけられた死刑囚だ。
けれども、一向にミノタウロスの攻撃が俺に振りかざされることはなかった。
「…………?」
訝しがりながら目を開ける。
先ほどまで手が触れていた真紅の吸血姫の死体がなくなっている。
――ザリッ
「ッ!?」
背後から物音。
仰向けになったまま、ゆっくり振り返ると、そこには金色の髪をなびかせ、赤色の瞳を持つ美女が立っていた。
足元には、身体の中心を一刀両断されたミノタウロスの死体。
「ありえない……まさか、成功したのか……ッ!?」
「よもやよもやよ――聖教会のクソジジイに不覚を取って殺されたと思った矢先、ネクロマンサーに蘇らせられるとはの。しかも、こんな小童に使役される事になるとは。妾も随分長く生きたが、死んだ後も退屈しそうにないのゥ」
黄金と真紅の美女は妖艶に笑う。
――――レベルアップしました。
――――特定の条件を満たしました。クラス【死霊術師】が【影霊術師】にクラスチェンジしました。
――――スキル【影霊抽出】を習得しました。
「な、なんだこれ……ッ!?」
突如現れる視界を覆う四角い板。
レベルアップ? クラスチェンジ? スキル習得?
そこには文字が書いており、単語1つ1つの意味は理解出来るが、混乱した状態ではうまく頭に入ってこない。
「うお゛ッ!? か、身体が熱いッ!? あがッ!? あああああああああああッッッッ!?!?!?!?」
今度はなんだ!?
死体になった時に痛覚を失ったはずなのに、全身が焼けるような激痛が走る。
頭蓋をギリギリを締め付けられるような痛みまで走り、意識を保てなくなる。
俺の悪運も流石にここまでか…………。
ぼやける視界。
視界が――真紅の吸血姫の美貌が歪み、やがて何も見えなくなる。
意識が――途切れる。
……。
…………。
………………。
……………………。
「まだ生きてる…………」
「いや、死んどるぞ。妾と同じでのゥ」
どのくらい気を失っていたのかは分からないが、目を覚ますと先ほどまでの痛みはなくなっていた。
立ち上がる。
玄室の最奥には玉座が設置されており、そこに真紅の吸血姫が座っていた。
「目を覚ましたか小童」
「いったい何がどうなってんだ……?」
真紅の吸血姫が答える。
「要点だけまとめると――小童は妾をネクロマンスで蘇らせ、そこに転がってるミノタウロスを駆除してやった。それだけじゃ」
……マジか。
本当に真紅の吸血姫を【死霊操術】できたんだな。
「あと、さっきのレベルアップがどうだの、【影霊術師】にクラスチェンジとかいう文字はなんだったんだ……?」
気を失う前のことを思い返す。
すると、再び目の前に文字が書かれた板が出現した。
名前:シド・ラノルス
クラス:影霊術師
レベル:34
HP:680/680
MP:750/750
筋力:120
防御:105
速力:130
器用:135
魔力:85
運値:71
スキル:【死霊操術】【影霊操術】
状態:【不死】
「なんだ……これ……?」
この書式、見覚えがある。
冒険者が冒険者協会にあるステータスを測る魔道具を使うと表示されるやつだ。
これは、俺のステータスって事か……?
いや、ありえない、俺のレベルは最後に測った時8だった。
それにクラスが【死霊術師】から【影霊術師】になっている。
「なにッ!? 小童、見えているのか!? 世界の理を見通す妾と同じものがッ! よもやよもや……これは愉快よなァ」