59 聖女の孤児院
前回のあらすじ
アニス――フローレンスに食事の誘いを断られる。
カイネ――セルヴァが殺されてシド絶対殺すマンになる。
フローレンス――シカイ族の孤児を保護する。
フローレンスとシカイ族の少年は、広い庭を持つ古い建物の前で足を止めた。
かなり年季が入っているが雑草やツタの類は見当たらず、丁寧に手入れがされているのが伺える石作りの建物だった。
門をくぐると、庭で遊んでいた子供の集団がフローレンスを発見し、駆け足で集まってくる。
その中には黒髪黒目の少年も何人か混じっている。
「フロウお姉ちゃんだ!」
「お姉ちゃん、一緒に遊ぼう!!」
「私フロウお姉ちゃんの絵を描いたの! 見て!」
「ねぇ、隣の子は誰? 新しく一緒に住む子? 名前はなんていうの!?」
「僕と同じ髪の色だ! 仲間だね!」
「み、皆さん落ち着いて下さい……この子は今日から皆さんの新しいお友達です。今はお腹を空かせているので、まずはご飯を食べてもらいます。でも、皆さんは夕ご飯の時間まで我慢できますよね?」
フローレンスは子供たちに問いかけると、「はーい!!」と元気よく返事をした。
――ここはフローレンス・キューティクルが運営する孤児院。
《聖痕の騎士団》になれば司教と同等の権限と俸給が与えられる。
フローレンスはその金を使って孤児院の運営をすることにしたのだ。
孤児院に丁度良い空き物件を購入し、世話をしてくれる管理人を雇い、子供たちが飢えることのない金を孤児院に送り続けていた。
その甲斐もあり、既にこの孤児院には10人もの子供が元気に暮らしている。
「フローレンス様、ようこそお越しくださいました」
「こちらの子は、新しい孤児の子でしょうか?」
フローレンスの訪問に気付き、建物から老夫婦が姿を見せる。
フローレンスが雇った孤児院の管理人だ。
「はい、この子に温かい食事をお願いします」
「承知しました」
「大丈夫――怖くないですよ」
ぎゅ、とフローレンスの法衣を掴む少年の背をそっと押し、老婆に少年を預ける。
老婆は少年の手を取って食堂の中に入っていった。
「それからフローレンス様を訪ねてお客様がいらっしゃっております」
「私にですか?」
「はい」
残った老爺がフローレンスに来客の名前を告げる。
その名前を聞いて、フローレンスは慌てて応接室へ向かうのであった。
***
「シーナ様!? どうしてここに!?」
「それはこちらのセリフだ。フロウ」
応接間にいるフローレンスの客とは、長い金髪をポニーテールにした美女。
親と死別した彼女の育ての親であり、師でもある《聖刻之参》――シーナ・アイテールであった。
「子供が子供の面倒を見るとは世も末だな。私に相談もなしにこのようなことをして」
シーナはどこからか、フローレンスが孤児院の経営をしている情報を仕入れたようでここを尋ねたようだ。
フローレンスを咎めるように問いただす口調には、呆れが混じっていた。
「確かにまずはシーナ様にご相談すべきでした。ですが、私はもう子供ではございません。《聖痕の騎士団》の1人。司教と同等の権限が与えられておりますし、己の責任は己でとれます。故に――これは私1人で決めさせていただきました」
フローレンスはまだ12歳の子供でありながら、シカイ族が今もなお差別意識を持たれている現状を憂いていた。
だがシーナのシカイ族に対する忌避感は聖職者の中でもひときわ顕著であり病的な域に達している。
とてもじゃないがシカイ族も受け入れる孤児院の運営について相談できるはずもなかった。
「はぁ……本当お前は――フランシス様に似ている」
フローレンスの強い意志を込めた啖呵を聞いて、シーナは諦めるように息を吐いた。
「お母さまに……ですか……?」
「フランシス様は類い稀なる回復魔法の使い手であった――故に彼女は、最もシカイ族を殺した聖女と呼ばれた。だが、最後までシカイ族狩りに異を唱えるお方でもあった。本当は……誰よりもシカイ族のことを思いやっておられたのだ」
かつての師を思い浮かべ、遠い目をするシーナ。
まだ幼い目の前の少女と、《慈愛の聖女》の姿を重ね合わせる。
意思の強い瞳は――確かに彼女の知るフランシスそのものであった。
「じゃあ……どうしてお母さまは、シカイ族への迫害を……」
「枢機卿団にお前を人質に取られていたからだ」
「人質……?」
12年前、枢機卿団はフランシス・キューティクルをシカイ族狩りの指揮官に任命した。
しかし当時の《聖痕の騎士団》の《聖痕之参》であったフランシスはそれを拒否。
だが聖教会の最高幹部である枢機卿団に逆らえるはずもなく、枢機卿団は当時赤子であったフローレンスを人質に取った。
キューティクル家は代々聖教会に僧籍を置く聖職者の家系。
信仰を捨てて俗世の道を選べるはずもなく、フランシスは枢機卿団の命令に従わざるを得なかった。
フランシスは2年でシカイ族の3つの部族を壊滅させ、そしてその3つ目部族との戦争で命を落とした。
そしてフランシスは死の間際、当時2歳だったフローレンスのことを部下であるシーナに託したのであった。
「この建物は――かつてもフランシス様が運営していた孤児院だった」
「お、お母さまがですか!?」
シーナは応接間から窓の外を見る。
そこには飢えていない子供たちが無邪気に遊んでいる。
その中にはシカイ族の姿もあり、しかし子供達の間には差別意識も被差別意識もない。
フローレンスの教育が行き届いている証であった。
「あの管理人の老夫婦もそうだ」
管理人の老夫婦は、フローレンスが孤児院管理人の求人を出した際に真っ先に訪ねてきてくれた。
だがかつてもここで働いていたとは、一言も聞いていない。
「そして私は――この孤児院で育った」
「……え!?」
衝撃的な事実に、情報を整理しきれない。
この建物はかつても孤児院として機能していた。
そして運営者の名前は母親のフランシス・キューティクル。
更に――シーナはこの孤児院出身だという。
「本当に驚いたよ。なにからなにまでそっくりだ」
懐かしむように応接間のテーブルを撫でるシーナ。
フローレンスはフランシスのことを殆ど覚えていない。
にも関わらず、まるで母親の意思を継ぐように孤児院を開き、シカイ族虐殺の罪を代わりに償うかのように、シカイ族の保護を始めた。
シーナは過去、しつこいまでにシカイ族の害悪性を、大袈裟なまでに言い聞かせたにも関わらず。
故にシーナは折れるほかなかった。
「最初から反対などしていない。それがお前が選んだ道なら、好きにしろ」
「シーナ様……」
「だが心しろ。目に見える範囲の孤児やシカイ族を助けて自尊心を満たしたいだけなら今のままでもいいだろう。だが――この国に蔓延る全ての飢えと差別意識を取り除きたいと言うのであれば――それは数多の聖者が目指し、そして志半ばで散っていった修羅の道になるだろう」
「――既に承知の上です」
「ふっ、そう言うと思っていたよ」
シーナはソファから立ち上がり、フローレンスの頭を撫でる。
「フランシス様は最後まで、それこそ戦争の最中でさえシカイ族狩りに反対だった――それでも私はフランシス様を殺したシカイ族を許したりはしない。故にお前の手助けもしない。精々足掻け――終わりなき救済の果てを目指し、力尽きるその時まで」
「…………はいッ!」
フローレンスは、覚悟を決めた目で答えるのであった。
【魔法とステータスについて】
――質問来てた!
読者の方より、本作における魔法についての説明が足りないとのご指摘を頂戴しましたので、軽く魔法とステータスまわりの世界観設定の補足説明をさせて頂きます。
――結論!
ぶっちゃけ深く考えなくていいです。
ドラゴンクエストだと思ってくれればOKです。
一応言い訳をすると、読者の方にスムーズに世界観を受け入れて貰えるように、なろう小説でテンプレ化している世界観を殆ど流用しています。
わざとなんです(言い訳)
キャラクターとストーリーとバトルで勝負してるつもりなので(言い訳2)
これで納得頂けた方は、以下の文章は読む必要ないので、飛ばして頂いて構いません。
==ここから詳しい説明==
【クラスと魔法について】
この世界の人間は生まれた際、必ず何かしらのクラスを持って生まれます。
クラスというのはゲームでいうジョブとも呼ばれるものと同意ですが、本作はクラスで統一してます。
基本的なクラスは【戦士】【盗賊】【魔術師】【僧侶】です。
そして魔法が使えるクラスは決まっており、魔法が使えるクラスを持った人間がレベルを上げる事で魔法を習得できます。
上記の基本的なクラスだと【魔術師】【僧侶】は魔法が使えます。
魔法はレベルを上げれば習得できますが、個人差があります。
勇者パーティのリリアム(故)は雷属性の魔法が得意でした。
ちなみに魔法が使えないクラスもスキルを覚えるので、非魔法職もMPは貴重です。
あとは特定の魔法/スキルを沢山使ったり、特定の魔物を沢山倒したりと条件をクリアすることで習得する魔法/スキルもあります。
原理についてはこの世界がそういう法則だからです。
深く考えてないので、深く考えなくていいです←
【クラスアップについて】
レベルを上げることで上級職にクラスアップします。
先ほど挙げた基本クラス4つの上級クラスはそれぞれ【重騎士or狂戦士】【アサシンorシーカー】【魔導師】【大僧】です。
〝or〟表記しているように、戦闘スタイルによって違う上級職になるパターンもあります。
たまに戦士なのに魔法が使えたり、魔術師なのに回復魔法が使える者がいます。
その辺は才能に左右されます。
そういう者はレベルを上げると魔法剣士や賢者にクラスアップします。
複合上級クラスと呼ばれます。
ちなみに珍しい初期クラスはユニーククラスと呼ばれます。
シカイ族の死霊術師、王子であるシルヴァン(故)の勇者、聖教会のセルヴァ(故)の薬師が該当します。
存在が殆ど認知されていない激レアクラスはエクストラクラスと呼ばれます。
シドの影霊術師が該当します。
あと人類最強アルムガルドの剣聖も該当します。
――だいたいこんな感じとなります。
一応考えてはおりますが、なろう小説を読みなれている読者の方からすれば説明しなくともなんとなく理解して頂けると判断し、テンポを重視して改稿して本編に組み込むのではなく、あとがきの場を使って紹介させて頂きました。
今後も「この辺の設定どうなってるの?」「説明不足すぎない?」といったご意見あれば、遠慮なく書き込んで下さいますと幸いです。
ただやはり、本編はテンポを重視したいので、改稿ではなくあとがきで補足という形で回答させて頂きます。
明らかに説明不足だったと判断した際は改稿させて頂きます。




