55 《聖痕之伍》――セルヴァ・アルトゥス
前回のあらすじ
ダンジョンでレベル上げを行っているシドの前に、影霊術師の抹殺を掲げる《聖痕の騎士団》の1人――セルヴァ・アルトゥスが立ちふさがるのであった。
「ボクは《聖痕の騎士団》が1人、《聖痕之伍》――セルヴァ・アルトゥス。神の名において――束ねし叡智を剣の贄に、賢者の祈りを天秤に掲げ――影霊術師を抹殺する――ヨ」
セルヴァ・アルトゥス。
聖教会の特殊戦闘部隊――《聖痕の騎士団》が立ちふさがる。
「おやおや? なぜボクがキミの居場所を把握することが出来たのか、不思議そうな顔をしているネ?」
「そうだな。聖教会の奴ら全員で全てのダンジョンで張りこんでたのか?」
「ハハハ――いくらキミが《聖痕の騎士団》の最優先抹殺対象とはいえ、そこまで暇ではないヨ。でも、そうだネ――そんなに気になるのなら、教えてあげてもいいヨ」
セルヴァは白衣のポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認してから再び白衣に戻してから――話を続ける。
「ダンジョンをクリアしたら必ずダンジョンコアが手に入る。にも関わらず――冒険者協会に査定に出されたダンジョンコアの数が、王都近郊の攻略されたダンジョンの数と釣り合わない。冒険者は魔石は必ず協会を通して売らないといけないし、魔石加工職人も協会からしか魔石を買うことを許されていないのだヨ。協会を通さずに魔石が売買されている可能性を疑い、聖教会は闇市場を洗ったが、やはりダンジョンコアが市場に流れた痕跡はなかった」
「…………」
「さらにボクは――ここ最近王都近郊、その外縁部に位置する立地の悪いダンジョンが立て続けに攻略されていることに疑問を抱いた訳サ。丁度――現在ボクがいるダンジョンのような――ネ?」
「なるほどな……」
「キミは王都の門をくぐることが出来ない。しかしレベルを上げるためにダンジョンに潜る。他の冒険者と鉢合わせないよう、わざと人気のないダンジョンを選んでネ――となれば、自ずとキミが出没するであろうダンジョンの数は限られてくる――という訳サ」
「ご高説どうもありがとよ」
「どういたしまして――ご清聴ありがとネ」
まさかこんな方法で俺の移動パターンが読まれるとは思わなかった。
幸いなのは、俺が出没するダンジョンが絞れただけで――森の中のアジトの方はまだバレていないってことだ。
「んじゃ――そろそろはじめっか?」
長剣を抜き、刃の先をセルヴァに向けた。
奴の戦闘スタイルを測るためにステータスをチェックして比較するのを忘れない。
名前:セルヴァ・アルトゥス
クラス:薬師
レベル:68
HP:1020/1020
MP:1805/1905
筋力:102
防御:145
速力:170
器用:375
魔力:205
運値:340
名前:シド
クラス:影霊術師
レベル:102
HP:2040/2040
MP:2240
筋力:360
防御:310
速力:390
器用:410
魔力:225
運値:215
クラスは【薬師】。
聞きなれないクラスだ。
シカイ族の【死霊術師】と同じユニーククラスか。
俺の【影霊術師】のようなエクストラクラスの可能性もある。
ステータスでは圧倒しているが、慎重に身構える。
「どうした? 構えないのか?」
「その必要はないヨ――なぜなら――もう決着はついたようなものだからネ」
「……はァ?」
セルヴァは再び懐中時計を取り出す。
「そろそろボクの毒が効いてくる頃だろうから――――ネ?」
……。
…………なるほど、そういうことか。
「…………ごふッ!?」
俺は口から血を吐き出し、鮮血が顎を伝ってダンジョンの床を汚す。
「ほらネ? もう立っているのも限界のはずだヨ」
「…………がはッ!?」
膝から崩れ落ち、うつ伏せに床に倒れる。
奴がしきりに懐中時計を気にしていたのは、毒が発現するまでの時間を測っていたからか。
「い、いつの間に……毒を……クソッ」
呂律の回らない舌でセルヴァに問う。
「この霧はボクが作り出した毒霧なのサ――ボクのクラスは【薬師】。MPを消費してあらゆるポーションを生成するスキルだヨ。ポーションというのは傷や病を治すものだけではない――毒薬も立派なポーションなのだヨ」
ダンジョンのギミックだと思い込んでいた白い霧は、セルヴァのスキルだったという訳か。
1層に比べ、2層に魔物が一切出現しなかったのも頷ける。
先回りしていたセルヴァの作った毒霧に当てられ全滅したのだろう。
一見サポートタイプのように見えてえげつないクラスだ。
ダンジョンのような閉鎖的な空間で毒をまき散らせば、その階層の魔物を一掃して大量の経験値を得ることが出来るのだから。
「いつの時代も歴史を動かしたのは毒なのだヨ。神話の時代、龍害に苦しめられた民は龍に贄として酒を捧げた。龍は酒に酔い動けなくなった所を、勇者に首を斬られ討伐されたおとぎ話なんかは有名だネ」
「酒も……立派な毒ってことか……」
「毒も薬もようは使い方次第だヨ――おっと、影霊に助けを求めても無駄だヨ。この毒に当てられた者はスキルが発動できなくなるからネ」
影霊術師対策も万全ってことか。
「それから1000年前、まだ大陸が統一されておらず、無数の国家が乱立していた群雄割拠の戦国時代。当時天下統一間近と言われた某国の国王は、謀反を企てた家臣に毒を盛られて死んだ。そのせいで乱世は100年伸びたと言われる――20年前に存在した無敗のS級冒険者も、多数の恨みを買ったせいで娼婦と戯れたあと、眠りについた所で毒殺された――毒は相手がどんなバケモノであろうと、生命体である限り避けることが出来ぬ天敵なのだヨ」
「…………」
セルヴァは俺が喋る力も残っていないのを見て、一歩前に出る。
奴が毒に侵されていないのを見るに、予め解毒薬を生成していたのか――そもそも自分で作った毒は効かないのか。
「もう指一本動かす力も乗っていないだろう? 意識が残っているだけでも大したものだヨ。あとはキミを聖母様の所へ連れていき、真紅の吸血姫と同じ様に《始僧の聖杭》で胸を貫いて貰えば任務完了だヨ」
セルヴァは眼鏡のレンズを光らせながら、不敵な笑みで俺を見下ろした。




