54 ステータス確認とウンコの話
ゴブリンの森に作ったログハウス生活も、気付けば1ヶ月が経過した。
小屋の周囲の土を耕して畑と花壇を作り、リンの甲斐甲斐しい世話により既に芽が出てきた。
正直俺は花に興味はないが、「ご主人様、花壇から芽が出てきましたよ!」と幸せそうに報告してくるリンの顔を見ると――ああ、リンのために拠点を用意して良かったな――と実感するこの頃。
「妾的には花よりも野菜の方が早く育って欲しいのじゃがな……」
「お前は本当食べることばっかだな……」
勿論セキュリティにも力を入れている。
現在の拠点はかつてゴブリンロードが生息していた危険な森だ。
野生動物は勿論のこと、魔物だっている。
畑の野菜や人肉を求めて、リンに危険が及ぶ可能性が高い。
故に24時間体制で影霊による巡回警備を徹底させている。
俺がダンジョンに潜って小屋を留守にするときは、必ずミノタウロスやデュラハンクラスなどの主力級の影霊にリンをボディガードさせている。
パトロールをしている影霊は時たま、鹿やイノシシといった野生動物を狩ってくることがある。
そういう時はリンに頼んでジビエに調理して貰っている。
リンはかつて飲食店の主人の元で奴隷をしていた経験もあり、王都で買いこんだハーブやスパイスを駆使して調理されたジビエは臭みがなく、エカルラートからも好評で、エカルラートが自ら野生動物を探しに行くほどであった。
野生動物で思い出したが、移住したばかりのときは「肉食動物は自分の縄張り内にウンコをすることで周囲に臭いを放ち、自らの縄張りを主張する」という、野生動物の習性を利用しようとしたことがあった。
そこで生命体として最上位に位置するエカルラートにウンコを撒いて貰おうとしたが、「妾はウンコなどせん!」と、怒られてしまった……。
確かに俺も不死になってから排泄物を出していない。
どうしたものかと困っていると、この中で唯一ウンコをするリンが恥ずかしそうに「あの……わ、私のウンコでよければ、ま、撒いていいですよ……!」と顔を真っ赤にして言ってきたが、いたいけな少女であるリンのウンコを撒いても縄張りの主張にはならないので却下した。
――ウンコの話はここまでにしよう。
――と、まぁ。
こんな具合で充実した生活を送っている訳である。
***
――そして現在。
俺は王都周辺にあるダンジョンの前に来ていた。
「復讐は後回しになっているとはいえ、レベルは上げるに越したことはねェし、身体動かさないと感覚が鈍っちまうからな」
最近は王都から遠い場所にあるダンジョンを中心にレベル上げを行っている。
遠い場所にあるダンジョンは移動距離に時間がかかるため冒険者から人気がない一方、ヴァナルガンドの空間転移が使える俺は自由に行き来できるので絶好の狩場と言えた。
「名前は――もう分かんねぇな。新しいダンジョンが発生するたびに、協会がランクと名前を付ける前にクリアしちまってるからな」
ちなみに魔石やダンジョンコアは、指名手配中故に協会の敷居を跨げないため換金はしていない。
そのため全て影霊の強化に消費している。
そのかいもあり、主力級影霊は全て2段階強化済みである(俺のレベルが上がったことで、影霊を2段階まで強化できるようになった)。
現在の俺と影霊のステータスはこんな感じになっている。
名前:シド
クラス:影霊術師
レベル:102
HP:2040/2040
MP:2240
筋力:360
防御:310
速力:390
器用:410
魔力:225
運値:215
名前:ミノタウロス+2
ランク【S】
総合戦闘力10000
名前:ウィンディーネ+2
ランク【S】
総合戦闘力10000
名前:デュラハン+2
ランク【A+】
総合戦闘力7500
名前:ゴブリンロード+2
ランク【A】
総合戦闘力5000
名前:ダークホース+2
ランク【B+】
総合戦闘力3800
――こんな具合だ。
残念ながら初期メンであるオークとガーゴイルは主力落ちした。
勇者パーティの復讐を決行する際、【緋宵月】の魔物を一掃して大量に影霊にしたので、もはやオークはゴブリン同様雑兵扱いだ。
オークだけで50体くらいいる。
「レベルも大台の3桁に突入したし、人類最強に追いつく日も近いかもな……」
――と、最近の出来事を振り返りながら遭遇する魔物を切り伏せていたら、いつの間にかダンジョン2層に到着。
「手ごたえが全くねェな。E級かD級くらいか?」
『今のシドにとっては、準備運動にもならぬな。とっととクリアして他の新しいダンジョンを生成させた方が良さそうじゃな』
「次はA級ダンジョンが生成されるといいんだが」
エカルラートと軽口を叩きながら階段を降りる。
ダンジョン2層は上階と違い、薄っすらとした霧が漂っていた。
全く見えない訳ではないが、視界が制限されていることには変わりない。
余計な考え事をするのは止めて、神経を集中させながら攻略を進める。
『シド……人がおるぞ』
「(こんな辺鄙なダンジョンに同業者が……?)」
巡回馬車を使えば往復時間だけで半日もかかるアクセス最悪なダンジョンに潜る物好きな冒険者が俺以外にいるとはな……。
指名手配扱いとなっている手前、冒険者と顔を合わせるのは避けたい。
冒険者と鉢合わせする前に踵を返そうとする直前――
「おやおや――こんな所で冒険者に遭うとは珍しいこともあるもんだネ? もしかして――人前に顔を晒せない理由でもあったりするのかナ?」
――そいつは霧を掻き分けながら俺の前に姿を現す。
「冒険者協会に依頼されて、新しく出現したダンジョンの攻略難度を調べるクエストをしてるんだ。そうじゃなきゃざわざわこんな辺鄙なダンジョンに好き好んでこねェよ」
勿論嘘だ。
協会が新しいダンジョンの難易度を測るために、ベテラン冒険者に下見を依頼することはよくあることだが、俺はそんなクエスト受けていない。
「そういうアンタはどうなんだ?」
「ボクかい? ボクはちょっと人を探していてネ」
対面する冒険者は一歩前に出る。
霧の中でも顔が確認できる距離。
男にしては長い白髪に、インテリジェンスな印象を与える眼鏡。
服装は――聖教会の法衣の上から白衣を羽織っている。
嫌な予感がする。
「人探しだと? ダンジョンの中でか?」
「シド・ラノルスというシカイ族の男だヨ――君も冒険者なら知らないはずはないだろう? 王族殺しの大罪人サ――ああ、丁度キミのような青年だヨ。手配書そっくりだネ」
「人違いだろ。シカイ族ってだけで疑われるし、そのシドってシカイ族にはうんざりしてるんだよ。全く王族殺しなんて、一族の恥だぜ全く」
「白々しい嘘はやめたまえヨ――シド・ラノルス」
「……ちッ」
確信を持った声。
やはりバレている。
俺が必死についた嘘はとんだ茶番だったという訳だ。
「そういうアンタは誰なんだよ。懸賞金目当ての賞金稼ぎか? だとしたら辞めときな。たった1000万Gの賞金の為に命を失うことになるぜ」
「おっと失礼――自己紹介がまだだったネ」
聖教会の法衣を羽織った男は、紳士然とした態度でやうやうしく一礼する。
「ボクは《聖痕の騎士団》が1人、《聖痕之伍》――セルヴァ・アルトゥス。神の名において――束ねし叡智を剣の贄に、賢者の祈りを天秤に掲げ――影霊術師を抹殺する――ヨ」
スローライフ編――終了!




