50 王宮騎士団襲来!
前回のあらすじ
勇者パーティの生き残りルゥルゥは王宮の諜報員だったことが判明。
勇者パーティを殺したことがルゥルゥによって明かされ、王宮と聖教会がシドの命を狙っていることを、エカルラートから告げられる。
早くも、シドの屋敷に何者かが突入してくるのであった。
――ドカンッ!!
「「――ッ!?」」
屋敷の玄関が強引に壊される。
中に入ってきたのは王宮騎士団の鎧を着た男女が1組。
「シド・ラノルスだな?」
「貴様をシルヴァン第二王子殿下を殺害した罪で――断罪する!」
2人の騎士は同時に剣を抜く。
「おいおい――来るのが早すぎだろ」
俺が勇者パーティを殺して昨日の今日だぞ。
この屋敷は元々冒険者協会が管理していた物件。
そして協会は国営組織――俺の住居を特定するのには半日もあれば十分ってか。
「いいけどよ――俺はA級冒険者である勇者パーティを1人で殺したんだぞ? たった2人で俺が殺せると思っているのか?」
「「…………ッ!」」
2人の王宮騎士団のステータスを確認する。
名前:フロイト・ボンド
クラス:戦士
レベル:25
HP:600/600
MP:200/200
筋力:82
防御:70
速力:76
器用:60
魔力:45
運値:70
名前:エルマー・ビーンズ
クラス:戦士
レベル:27
HP:630/630
MP:220/220
筋力:90
防御:80
速力:69
器用:80
魔力:35
運値:78
剣術の腕前は最低限あるとは思うが、レベルの方は25と27。
C級冒険者程度のステータスしかない。
その気になれば椅子から立つことなく屠れるだろう。
「どうなんだ? とっととかかってこいよ?」
ヴァナルガンドの異空間収納から長剣を抜き――トドメとばかりに殺気を飛ばす。
威勢の良かった騎士は冷や汗を流しながら一歩後ずさり、背後へ目を配った。
コイツらの反応を見るに、恐らくこの屋敷は騎士団に囲まれている。
――パリンッ!
「ッ!?」
2人の騎士がいる玄関方面ばかり気を配っていたら、厨房の方で食器が割れる音が鳴る。
まさか――
「リンッ!?」
「おっと! 動くんじゃねェぞシカイ族。この奴隷がどうなってもいいなら話は別だがな?」
――悪い予感ほど的中する。
「ご主人様……申し訳ございません……ッ!」
「これで形成逆転だな?」
2人の騎士が派手に玄関から突入した隙に、厨房の勝手口からも別動隊が入り込んでいた。
そして無力なリンを人質にする――効果的な作戦だ。
やってるのがこの国の治安を守る王宮騎士団って点に目を瞑ればな……。
まさか俺が奴隷を所持している情報までバレているとは。
「将軍……さ、流石に無関係な奴隷を人質に取るのはいかがなものかと……」
「元々は挟み撃ちにする作戦のはずでは……?」
「てめェらは黙ってろ!」
リンを人質に取っている奴は将軍と呼ばれていた。
王宮騎士団の総大将だろう。
しかし非人道的な作戦に、部下も困惑している。
だがこの将軍――どこか見覚えのある顔だ。
名前:グレイス・ヴォルフ
クラス:重騎士
レベル:60
HP:1540/1540
MP:540/540
筋力:195
防御:260
速力:100
器用:90
魔力:60
運値:150
ステータスを確認すると、『グレイス・ヴォルフ』と表示される。
ヴォルフ――ガーレンと同じ苗字だ。
強さはガーレンより少し強いと言ったところか。
つまり――リンを人質に取られてさえいなければ、今の俺の敵ではない。
「お前……ガーレンの身内か?」
「そうだ。テメェが殺したガーレンの実の兄だよ。弟の仇! 取らせてもらうぞゴラァ!」
「兄弟揃ってクズ野郎じゃな」
エカルラートも呆れていた。
「どちらにしろテメェらはもう詰みだ。どんな方法で勝とうと、民衆にバレなきゃ問題ねェんだよ。とっとと武器を捨てろ。奴隷の顔をズタズタに切り刻まれたくなかったらな……」
「わっ! 私のことは構いませんご主人様っ!」
「暴れんなガキ!」
ガーレンの兄――グレイスはリンを後ろから押さえつけ、顔に当てた長剣を頬に当てる。
それだけでリンの頬は切れ、一筋の血が流れた。
なるほどね――やろうと思えば本当に無関係な人間を殺せるってことか。
なら――こっちもルール無用ってことでいンだよな?
「分かった。言う通りにしよう」
俺は武器を捨てて両腕を頭の後ろに回す。
「へへッ! 最初からそうすりゃいんだよゴミが。奴隷部族が生意気に奴隷なんて飼いやがって胸糞わりィ」
グレイスはわずかにリンに当てた剣を緩める――
「…………やれ」
――その瞬間。
影霊領域でリンの足元まで影を伸ばし、召喚したゴブリンロードがグレイスをぶん殴る!
「ごげッ!?」
『グララァ!!』
グレイスは吹き飛ばされ壁に衝突。
「リン! こっちに来い!」
「ご主人様ッ!」
リンは俺の元に駆け寄る。
リンの背中に手を当てて胸の中に抱き寄せる。
小さな身体はまだ震えているし、顔の傷も思ったより深い。
皮一枚切れた程度かと思ったが、肉までスッパリ切れていた。
早い所片づけてウィンディーネに治療してあげないとな。
「ゴブリンロード。容赦はいらない――殴り殺せ!」
『グルルッ!』
「うわッ! よせッ! やめろ! や、やめ――」
――バキッ! ドガッ! ボコッ!
ゴブリンロードは王宮騎士団将軍に馬乗りになって、奴の顔面を何度も殴る。
骨も歯も折れて顔面が陥没した末、10発目で奴のHPが0になり死亡したのを確認する。
「テメェらもああなりてェか?」
「ッ!?」
残った2人の騎士に問いかける。
コイツらは所詮雇われの身だし、グレイスの人質作戦を聞いていなかったように思えた。
故に、1度だけ慈悲をやる。
「ひぃ!?」
「ゆ、許してくださいっ!!」
騎士は武器を捨てて壊した玄関から逃げていく。
「甘すぎるぞシド」
「王宮騎士団は腐っても治安維持組織――正義の味方だ」
「この期に及んでまだ人の善性を信じるか。いつか足元を掬われるぞ?」
エカルラートは俺の選択に不服なようだ。
俺に害をなしたクズに対しては容赦はせず、可能であれば苦痛が長く続き、屈辱的な方法で殺す選択を取るが、それでも無差別に近づいてくる人間を殺せる程修羅には落ちていない。
きっとエカルラートは、俺がその修羅に落ちるのを望んでいるのだろうが。
リンの存在が俺を辛うじて人間に繋ぎとめている半面、エカルラートは隙あらば俺を修羅の道へと誘導してくる。
俺は果たして……最終的にどこにいきつくのだろうか。
「なんにせよ、この屋敷はもう使えない。高い買い物だが捨てるしかない――ヴァナルガンド」
足元から出現したヴァナルガンドの大口が俺とリン、エカルラートを飲み込み、再び闇の中に潜る。
――数分後。
逃げ出した2人の騎士が屋敷を包囲した仲間を引き連れ再突入したものも、グレイスの死体があるだけで、屋敷はもぬけの殻になっていたという……。




