48 聖痕の騎士団
今回は聖教会陣営を中心として三人称視点となっております。
また、今回は新キャラや久しぶりに登場するキャラクターが多数登場し、ややこしいため先に登場人物紹介とAIイラストを公開します。
ライトノベルのカラーページに載ってる登場人物紹介みたいな感覚です。
・《聖痕之弐》――ヨハンナ・ホーエンツォレルン(初登場)
エカルラートとの戦いで殉職したオズワルド・ワイデンライヒに代わって《聖痕の騎士団》をまとめる白髪の老婆。
部下を全員孫だと思っている。
・《聖痕之参》――シーナ・アイテール(再登場)
フローレンス・キューティクルの教育係を務める金髪ポニーテールの美女。
デュラハンのいるダンジョンへ向かう途中の馬車でシドに喧嘩を売ってきたり、オズワルド・ワイデンライヒの死体と聖遺物を回収するために【緋宵月】で遭遇した女聖騎士。
・《聖痕之肆》――カイネ・カイウェル(初登場)
全身の肌を余すことなく包帯で覆い、革のコートと帽子を着た背の高い男。
常に血の臭いがするので周囲からの評判が良くない。
・《聖痕之伍》――セルヴァ・アルトゥス(初登場)
法衣の上から研究者のような白衣を羽織った白髪メガネの男。
常に薬品の臭いがするので周囲からの評判が良くない。
・《聖痕之陸》――アニス・レッドビー(初登場)
赤髪赤目の美少女。
後輩キャラ特有のッスッス口調で話すけど別に年上に敬意を抱いている訳ではない。
・《聖痕之漆》――フローレンス・キューティクル(再登場)
シドに絞殺されたリリアムの後釜として、《聖痕の騎士団》に加入したシスターの少女。
シドと共闘してヴァナルガンドを討伐した際、大量の経験値を獲得したことで頭角を現し、12歳という若さで《聖痕の騎士団》に抜擢された。
――王都中央区に存在する聖教会の総本山、通称《大聖堂》。
――《聖痕の騎士団》の為に用意された会議室。
現在その一室には聖教会の最高戦力である《聖痕の騎士団》が全員揃っており、ただならぬ緊張感が張り巡らされていた。
最初に口を開いたのは、長机の上座に座る《聖痕之弐》――ヨハンナ・ホーエンツォレルンであった。
「本日は皆さんお忙しい中、お集り頂きありがとうございます」
ヨハンナは結界魔法を得意とする白髪の老婆だった。
かつて絶世の美貌を持っていた容姿は老いてもなお十分な品格を残しており、伸びた背筋にはわずかな歪みも見られない完璧な佇まい。
そんなヨハンナはかれこれ数十年に渡り、《聖痕の騎士団》を支え続けており、枢機卿団より聖女認定を受け――《境の聖母》の2つ名を持っている女傑であった。
老いを感じさせない凛と張りのある声に、残りの《聖痕の騎士団》は一斉にヨハンナへ視線を向ける。
「全くその通りだヨ聖母様。大層な名前がついているが、所詮は現場作業員である僕達が、各々に与えられた仕事を全て中断してまで一斉に招集されるなんて、かなり大きな案件が舞い込んできたと判断していいのかナ?」
口を挟んだのは《聖痕之伍》――セルヴァ・アルトゥルス。
癖のある白髪を伸ばし、法衣の上に白衣を着た研究者然とした眼鏡の男だ。
聖騎士として最前線で魔物討伐を行う傍ら、薬師として研究職も担っており、彼の研究成果は聖教会に大きな恩恵をもたらしていた。
「口を噤めセルヴァ――それを今からヨハンナ様に説明して頂くんだろうが」
「おっと悪かったネ――カイネ君。こうして《聖痕の騎士団》が勢揃いするのが久々で、ついテンションが上がってしまってネ。ここにワイデンライヒ卿がいないのが残念でならないヨ」
薬師のセルヴァに釘を刺すのは、セルヴァの正面に座る《聖痕之肆》――カイネ・カイウェル。
革のロングコート、革の帽子で全身を包んでおり、深く被った帽子の下の顔は幾重にも包帯が巻かれており、全身が包帯で包まれ皮膚の一切が隠された年齢不詳の不気味な男であった。
包帯や革のコートには返り血であろう液体がこびりついており、つい先程まで魔物討伐の仕事をしていたのか、まだ血の匂いを放っていた。
「あのーすんません。若輩者のウチが話の腰を折るのは大変恐縮なんスけど――先にこちらにいるかわい子ちゃんの紹介をして頂いていいっスかね? ウチ、それがさっきから気になっていて」
更に口を挟むのは、血の匂いを漂わせるカイネの隣に腰掛ける赤髪の少女。
名はアニス・レッドビー――《聖痕之陸》に席を置く溌剌とした17歳の少女だ。
アニスが指す先にいるのは、アニスの向かいの席で縮こまっている金髪の少女――フローレンス・キューティクルであった。
「あらまぁ、わたくしとしたことがごめんなさい。まずはフロウちゃんの紹介が先だったわね。フロウちゃん、皆に挨拶をして頂戴な」
亡きワイデンライヒに代わって《聖痕の騎士団》をまとめているヨハンナは、謝罪の言葉を口にした後、フローレンスに自己紹介を促した。
それに伴い、メンバー全員の視線がフローレンスに集中する。
「あっ! えっ! そのっ! わ、私は……っ! そ、その……っ! あうぅ……」
だがあがり症のフローレンスは、聖教会の猛者達に視線に怖気づいてしまい、うまく口が回らないでいた。
そんな彼女を見かねて、助け船を出すのはヨハンナの正面に座る聖騎士、《聖痕之参》――シーナ・アイテール。
「彼女は本日付けで《聖痕の騎士団》に任命されたフローレンス・キューティクルだ。まだ少し頼りない所があるが、多めに見てあげてくれ」
「はっ! はい! 皆さんのご迷惑にならないよう精進いたします! よろしくお願いいたします!」
「キューティクル……まさか《慈愛の聖女》フランシスの娘かネ? 天才の子は天才という奴だネ」
フローレンスは席を立ちペコリ――と大きく頭を下げた。
先日S級ダンジョン【緋宵月】にてシド・ラノルスと共にヴァナルガンドを討伐したフローレンスは、膨大な経験値によって大きくレベルを上げた。
更に彼女の母親もまた元《聖痕の騎士団》であり、その血を受け継いでいる彼女は才能を開花させ、短期間でメキメキと実績を重ねていく。
その評判は枢機卿団の耳にも入り、回復魔法の腕を評価されて若干12歳という若さで《聖痕の騎士団》の末席である《聖痕之漆》に任命されたのであった。
「緊張しないでいいっスよフローレンスちゃん! いや~ワイデンライヒ卿が殉職したのもあって一気に平均年齢が下がり華やかになったっスね~。ていうか、ウチやリリアムちゃんやフローレンスちゃんと、ここ最近若い女の子ばっか採用しすぎっス。絶対人事権持ってる枢機卿団にエロ親父がいるっスよ!」
「アニス、その発言は不謹慎だ。ワイデンライヒ卿がどんな思いで真紅の吸血姫と刺し違えたか分からんのか!」
「シーナ先輩そんな怒んないでくださいっスよ。冗談っす冗談。フローレンスちゃんの緊張を解そうと思っただけっス。それにフローレンスちゃんが顔採用されただけだなんて思ってないっスよ」
枢機卿団にエロ親父がいることは否定しない2人だった。
「あれ? でも《聖痕の騎士団》って確かメンバーは7人で固定っスよね? 8人目とかありなんスか? あっ! もしかしてワイデンライヒ卿が亡くなったから全員繰り上がりっスかね? となるとウチも《聖痕之陸》から《聖痕之伍》に昇格――もうそろそろ中堅を名乗っていい頃っスかね!?」
「いいえ。ワイデンライヒ君の死はまだ公表しません。故に序列の繰り上げもありません」
「彼女はリリアム・モースの後釜だ」
「……………………え?」
ヨハンナとシーナの言葉を聞き、アニスの笑顔が固まる。
「どういうことっス? リリアムちゃんはクビになっちゃったんスか?」
「リリアムは死んだ」
「わーお……っス」
「確かにリリアムちゃんは弱かったから仕方ないネ……S級ダンジョンをクリアした英雄の1人として、箔をつけるために無理やり枢機卿団が任命したからネ。そのうち死ぬと思ってたヨ。まさにさっきアニスちゃんが言っていた顔採用ってやつだネ」
「ワイデンライヒ卿も報われんな……」
セルヴァとカイネが、薬品と血の匂いを醸しながら同時に愚痴を漏らす。
「ってことは、今回呼ばれたのはリリアムちゃんの仇討ち――ってことスか?」
「捉え方によっては、そういうことになるのかもしれないわね――では、少し話がそれちゃったけど、本題に入るわね」
ヨハンナはやっと、《聖痕の騎士団》が招集された理由を話す。
「リリアムちゃんを――そして勇者パーティを殺害したのはシカイ族のシド・ラノルスという青年です」
「ッ!? シ、シド……さんっ!?」
「どうかしましたか? フロウちゃん?」
「な、なんでもございません! 話の腰を折ってしまい申し訳ございません、聖ヨハンナ様」
フローレンスは思わぬ人物の名前を聞いて、つい声をあげてしまった。
彼とは共にヴァナルガンドを討伐した関係であり、命の恩人でもあった。
「(そんな彼が、勇者パーティを殺害するだなんて……そんな人には見えなかったのに……)」
「でも問題はそこではないわ。ただの殺人なら《聖痕之肆》のカイネ君あたりにお願いすれば済むことだから。勇者パーティの仇討ちだって、王宮がするべき仕事よ――重要なのは、彼が【影霊術師】に覚醒しているということ」
「「「ッ!?」」」
ヨハンナが影霊術師という言葉を口にした瞬間、十代の乙女であるアニスとフローレンスを除く3人――シーナ、カイネ、セルヴァは目の色を変えた。
「あの~勉強不足で申し訳ないんスけど、【影霊術師】ってなんスか?」
「若いアニスちゃんとフローレンスちゃんは聞き馴染みがないかもね。でも無理もないわ。意図的に隠匿されていたことだから。でも、そういう訳にもいかなくなったの」
「そうか――【影霊術師】の覚醒条件は自身に【死霊操術】をかけたシカイ族が不死の肉体を手に入れること。真紅の吸血姫の血を飲んだシカイ族がいるということだネ?」
「セルヴァ君のいう通りよ」
「で、なんなんスか? 【影霊術師】って?」
アニスの疑問に、セルヴァが人差し指で眼鏡の位置を整えながら答える。
死体ではなく影霊と呼ばれる影を使役する特殊なクラスであるということ。
一般的な【死霊操術】と違い、肉体が腐ることはなく、倒しても無限に復活すること。
影霊が倒した魔物を影霊にすることで、ネズミ算式に影霊の数が増えていき、【影霊術師】単体で世界そのものを転覆させることが出来るポテンシャルを秘めていること。
――そしてかつて、【影霊術師】による国家転覆未遂事件が起きたことを、アニスとフローレンスは説明される。
「わーお……そりゃやばいっスね」
ヨハンナは続ける。
「最後に覚醒した【影霊術師】が確認されたのは20年前。オズワルド君亡き今、当時の討伐メンバーで生きているのはもうわたくしだけね――当時の《聖痕の騎士団》は大きな犠牲を払った末に、国家転覆を企てた【影霊術師】の討伐に成功したわ」
「その一件で聖教会はシカイ族が危険極まりない一族だと思い知らされ――シカイ族狩りが始まった……ということだヨ」
その後シカイ族は聖教会によって10年の年月をかけて、大きく数を減らすことになった。
「なるほどっスね。いやー、勉強になりましたっス」
「つまり……今回我々に課せられた任務とは……」
「そうです。【影霊術師】――シド・ラノルスの抹殺です。ターゲットが我々の手に負えなくなるレベルに到達する前に、なんとしてでも亡き者する必要があります。それが枢機卿団より我々に下された最優先任務です」
ヨハンナは、凛とした声で告げた。
《聖痕の騎士団》はことの重大性を確認し、皆が決意を固めるのであった。
ただ1人――シドと顔なじみであるフローレンスを除いて。
「(シドさん……どうして……こんなことに……)」
〈第1章――Born of the SHADOW Necromancer――完〉
〈第2章――KNT's of the Sword and Balance――に続く〉
これにで第1章の完結となります。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
第2章も近日中に連載開始予定となっております。
今後とも、最強クラス【影霊術師】に覚醒し、俺を捨て駒にした勇者パーティと世界の全てに復讐する、をよろしくお願いいたします。
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作者の承認欲求が刺激され生を実感をすることが出来ますので、なにとぞ……!




