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【完結】最強クラス【影霊術師(シャドウネクロマンサー)】に覚醒し、俺を捨て駒にした勇者パーティと世界の全てに復讐する  作者: なすび
【第1章】Born of the SHADOW Necromancer

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47 勝利の美酒

前回のあらすじ

勇者パーティのアサシン――ルゥルゥの殺害に失敗してしまうシド。

若干の不穏を抱きながらも、とりあえずの復讐達成を祝って自宅でささやかな宴を開くのであった。

 屋敷に戻った俺は、リンがグラスに注いでくれた赤ワインを飲んでいた。

 エカルラートがリンに指示して予め用意させていたらしい。


 初めて飲む赤ワインは――悪くない。

 ただ、それがワインの味が良いのか、復讐の達成感によるものなのかは分からない。


「ご主人様、なんだか嬉しそうですね」


「ああ――これでようやく、俺の本当の人生が始まると言っても過言ではないからな」


「…………」


 けれども、祝いの酒を用意した張本人であるエカルラートは浮かない顔であった。

 赤ワインのグラスを傾けながら、眉間にシワを寄せている。


「エカルラート……どうした? 今日はめでたい日なんだ。もっと楽しそうにしたら?」


 エカルラートは俺がリンを拾ったことで、復讐心が薄れるのではないかと懸念するほど俺の復讐に肯定的だった。

 にも関わらずエカルラートの顔色は優れない。


「シド――まずいことになった」


 観念したようにエカルラートが口を開く。


「……なにかあったのか?」


 エカルラートのいつになく真剣な表情に、ワインの酔いも覚めて姿勢を改める。


「そうじゃな、この事態を説明するには、勇者パーティの成り立ちと聖教会との関係から説明する必要があるじゃろうな……」


 そう言って、エカルラートは語る。

 勇者パーティの秘密を――



 ――勇者パーティとは、王宮が王室の権威と支持を高めるために、第二王子であるシルヴァンにS級ダンジョンを攻略させ、英雄に担ぎあげるために計画された盛大なプロパガンダであること。


 ――あらゆる民衆から支持を得るため、様々な身分、人種を集めた混成パーティである必要があったということ。


 ――しかし様々な思惑や利権によって選ばれた勇者パーティでは、S級ダンジョンをクリアすることは不可能であること。


 ――そのために聖教会に真紅の吸血姫の討伐を依頼したこと。


 ――聖教会は勇者パーティに聖教会の人間を組み込むことを条件に、王宮からの依頼を受け入れ、オズワルド・ワイデンライヒは自らの命と引き換えに見事エカルラートの討伐に成功したこと。




「…………」




 そして――勇者パーティの唯一の生き残りであるルゥルゥが、王宮の息のかかった諜報員であったこと。



「あのアサシンはただの冒険者ではなかった。王宮の犬じゃ」


「つまり……?」









「シドが勇者パーティに手をかけたことが――王宮と聖教会にバレておる」




***



 ――場所は変わり。


 ――王都中央にそびえ立つ王城。


 ――玉座が鎮座する謁見の間にて。



「それは……誠か……?」


 贅の限りを尽くした豪奢な城内。

 その玉座に座る老人は、耳を疑うように家臣へ聞き返す。


「ははッ! 恐れながら……!」


 玉座に座っているのは、青い髭を蓄え王冠を被った勇者シルヴァンの父親にして国王――アズフォルード・レングナード。

 国王の前で跪く家臣から息子の訃報を告げられた王は、思わず玉座から腰を浮かした。


「な、なんということだ……シルヴァン……ッ! なぜッ!」


 王は愛する息子を失った悲しみにくれ、涙を流している。

 そして――家臣から告げられる次の言葉を聞き、表情は悲しみから怒りに変わる。


「シルヴァン殿下は魔物に殺されたのではありません――帰還したルゥルゥ・ジンジャーの報告によりますと、殿下に手をかけたのは、シカイ族のシド・ラノルスとのことです」


「シド・ラノルス……奴隷風情のシカイ族が、余の息子を殺したというのか……!?」


「恐れながら」


 国王は玉座に肘掛けに拳を叩き付ける。


「王宮騎士団を出せ! 総力を挙げてそのシカイ族の首を持ってくるのだ! これは勅である!」


 謁見の間に、国王の怒声が鳴り響いた。



***




 ――数刻後。


 ――王宮騎士団詰所。


 ――王宮騎士団を束ねる将軍の執務室。



「なにィ!? 嘘じゃねェだろうなァ!? 弟が……ガーレンがそう簡単に殺されるはずがねェだろうがッ!」



 ――ガンッ!



 執務室の机の前に座る将軍は、早くもシド・ラノルス討伐の勅を受け、伝令の兵に対し怒声をあげる。

 王宮騎士団将軍の名は――グレイス・ヴォルフという。


 勇者パーティの重騎士、王宮騎士団の部隊長を務めていたガーレンの兄であった。

 国王が息子を失った悲しみに胸を痛めたのと同時に、将軍もまた弟が殺されたという情報に驚きを隠せずにいた。


「一刻も早くシド・ラノルスの首を持ってくるというのが、陛下からの命でございます――将軍」


「ああ、言われなくともそのつもりだ。弟の仇はオレが討つ――今すぐ騎士団を広場に集めろ! オレも出る!」



***




 ――同刻。


 ――冒険者協会の受付窓口。


「え、ええぇ!? シ、シドさん!?」


 受付嬢のエミリーは、協会に届いた新しい指名手配書を見て驚きの声をあげた。


「どうしたのエミリー? えっとなになに~? 第二王子シルヴァン殿下殺害の指名手配犯、懸賞金1000万G――すごっ!? ていうかシルヴァン王子が殺された!?」


「いや、そんなはず……え、なんで……」


 エミリーの同僚である受付嬢は、震えるエミリーの手から手配書を取って、改めて人相図を確認する。


「あれ? このシカイ族どっかで見たような? あ――――!! エミリーと仲良かったソロ冒険者じゃないこれ!? やば! いつ来てもいいように通報の準備しておかないとじゃん!」


「ち、ちちちち違いますよ! な、なにかの間違いです! シドさんがそんなことする訳……」


 後に王都に至る所に貼られることになるその手配書には、1000万Gという莫大な懸賞金と一緒に――シド・ラノルスの人相図が描かれているのであった。




***




 ――同刻。


 ――王都内某所にある人目のつかない薄暗い地下室。



「――なるほどね。シド・ラノルスは【影霊術師シャドウネクロマンサー】に覚醒。五大魔公の内、《永遠》及び《悠久》を司る真紅の吸血姫と吞みくだすヴァナルガンドを配下にした――と」


「…………」


 薄暗いジメジメとしたその地下室には、1組の男女がいた。

 男の方は、この国では珍しい黒髪黒目のシカイ族の男であり、女の方は紫髪と褐色の肌を持つラギウ族であった。


「概ね計画通りだよ。でもまさか――唯一居場所が判明していなかったヴァナルガンドが、真紅の吸血姫が隠し持っていたとは思わなかった……よく【影霊術師シャドウネクロマンサー】を相手にして生きて帰ってきてくれた。流石だね――――ルゥ」


 シカイ族の男は、ラギウ族の女の頭を優しく撫でながら、細く微笑むのであった。

 そしてラギウ族の女もまた、男に褒められた喜びで、氷のような表情を溶かして、頬を綻ばせていた。


次回、第1部最終回!

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