46 ルゥルゥへの復讐
「さて――これで全員の復讐が終わったな」
アサシンのルゥルゥは正直な所恨みはないので、デュラハンとダークホースを差し向けててきとうに殺すように指示を出していた。
無論、俺の奴隷としての酷い扱いを見て何もしてくれなかったため、復讐対象であることに違いはない。
さっきデュラハンの視界をチェックした際、既にルゥルゥが死んでダークホースに搬送している所を見ている。
そろそろデュラハンがルゥルゥの死体を持ってここに来るはずだろう。
そう思ってデュラハンの視界を再度チェックしようとした所――
――デュラハン HP0【消滅】
――ダークホース HP0【消滅】
「――――は?」
「シド、どうかしたか?」
「デュラハンが殺されている」
どういうことだ?
さっき確認した時ルゥルゥは死んでいた。
影霊の視界越しではステータスをチェックできないので、HPが0になっているのを確認した訳ではないが、デュラハンがそれに気付かないわけがない。
「そもそも今のデュラハンは初期のミノタウロスと同じ強さだぞ……? ルゥルゥに殺せるわけが……」
嫌な予感がする。
俺は視界一面に召喚中の影霊の視界共有ウィンドウを大量に出現させ、見失ったルゥルゥを探す。
次々と右から左へと流れていく映像ウィンドウ。
その中の一枚に一瞬、紫の影が映ったと思うと――板が消えた。
――ゴブリン HP0【消滅】
プツン、プツン、プツン――と、次々に視界共有板が消えていく。
――ゴブリン HP0【消滅】
――オーク HP0【消滅】
――コボルト HP0【消滅】
「影霊が次々と殺されている。それも物凄い速さでだ」
そんな中――天井に張り付いているコウモリ影霊がルゥルゥの姿を捉えた。
宙づりになっているコウモリの視界板を、180度回転させ見やすくしながら、板に映ったルゥルゥを観察する。
「よもやよもや――じゃな」
ルゥルゥは生きていた。
ダンジョンの回廊を駆け抜けながら、速度を落とすことなく、すれ違う影霊を高そうな短剣で次々と切り伏せている。
コウモリやネズミといった、小動物の影霊だけがルゥルゥの刃を逃れているが、魔物影霊は的確に急所を撫で斬りにされている。
「確かにルゥルゥは死んでいたはずだぞ!?」
「恐らくはアサシンのスキル――【フェイクデッド】じゃな。自身を仮死状態にするスキルじゃ。それで死を偽り、搬送中のデュラハンを背後から奇襲したのじゃろう」
「デュラハンは首の下――鎧の内側が弱点だ。そこをやられたという訳か」
そうこうしている間もルゥルゥは、ダンジョン全域に張り巡らせていた影霊をどんどん倒している。
脳内で地図を完璧に把握しているのか、最短距離で地上を目指していた。
「影霊総員に通達! ルゥルゥを生かして帰すな!」
遠隔で指示を出すも、ルゥルゥより弱い影霊にそんな指示を出しても意味はない。
「ルゥルゥ、昔から掴みどころがないと思っていたが、実力を隠していやがったな……」
ルゥルゥは既にダンジョンの入口付近まで移動している。
だがダンジョンの入口を塞ぐように、最後の砦としてゴブリンロードを配置している。
本来は復讐中に他の冒険者が入ってこないようにゴブリンロードに封鎖させていたのだが、おかげで助かった。
ゴブリンロードはデュラハンより総合戦闘力は下だが、分かりやすい弱点がない。
ルゥルゥのステータスで倒せる相手ではない。
「ゴブリンロード! なんとしてでもルゥルゥを止めろ!」
固唾を飲んでゴブリンロードの視界ウィンドウを見守る。
ゴブリンロードが大剣を振るう。
ルゥルゥは素早い身のこなしで回避し、すれ違い様に刃を振るう。
ゴブリンロードは振り返ってルゥルゥを追うも、一歩目を踏み出したところで跪き動けなくなる。
「足の筋が綺麗に切り取られておるぞ!」
「逃げられたら不味い……ヴァナルガンド! 地上まで送ってくれ!」
『ワオンッ!』
ヴァナルガンドは俺とエカルラートを丸呑みにして、地上までワープするも、既にルゥルゥの姿はなかった。
「ちッ……逃げられた、か」
『グルゥ…………』
足の筋を切られて地に伏しているゴブリンロードが、申し訳なさそうな声をあげている。
「気にするな。全ては使役者である俺の責任だ」
「あのラギウ族のアサシン、相当な手練れじゃ」
「でもルゥルゥのステータスはかつてチェックしたがレベル45。ベテランのB級冒険者から昇級したばかりのA級冒険者くらいのステータスだったはずだ」
「となると――ステータスに反映されない素の身体能力によるものじゃろうな。弱い影霊は全て急所を突かれており、ゴブリンロードは倒せないと即座に判断して足を潰しておる。ナイフの方もかなりの業物と見た」
「まぁ……逃がしちまったモンは仕方ねェ。犯人が俺だという証拠もない」
俺は徹底して他の冒険者に影霊を見られないようにしてきた。
謎の黒い魔物に襲われたが、それが何だったのかは分からない――とルゥルゥが判断するのを祈ろう。
「ルゥルゥはまた別の機会に殺す。あいつはシルヴァンやガーレンやリリアムと違って社会的発言力はない。生かしておいても厄介なことにはならないだろう」
王族のシルヴァン、王宮騎士団のガーレン、聖教会のリリアムと違い、ルゥルゥは後ろ盾を持たない平民のラギウ族のアサシンだと聞いている。
勇者パーティが壊滅したことで、新しいパーティを組んでまた冒険者稼業を続けるはずだ。
その時にチャンスを伺えば良い。
――釈然としない終わり方になってしまったが、それでも最も恨みのある3人に無事復讐を執行できたのは確かだ。
今はその達成感に浸るとしよう。
ヴァナルガンドに再度ダンジョン最奥部に飛んでもらい、ダンジョンコアを回収。
ダンジョンはシルヴァン達の死体と一緒に消滅し、証拠も残らない。
「ここで全員始末してもやることがなくなっちまうからさ。正直ルゥルゥにはそこまで怒りは感じないし、またの機会にするさ」
「強者の余裕というやつじゃな」
こうして俺達はヴァナルガンドの空間転移で、リンの待つ王都の屋敷に戻るのであった。




