43 奴隷の首輪
前回のあらすじ
MPが残っていれば負けないと豪語するリリアムに、MPポーションを差し出すシド。
リリアムは渾身の一撃を放ち、シドはその魔法を正面から受け止めるのであった。
「死んじゃえ❤ 【ジャッジメントサンダー】❤❤❤」
バチバチと帯電した、極太と光りの帯が放たれる。
直視すると目を焼かれる程の眩しさだ。
俺は魔力を込めた右腕を前へ突き出し、リリアムの渾身の魔法を受け止める。
――――轟ッッ!!
ダンジョンの回廊に強烈な衝撃波が走る。
煙に包まれ、肉が焦げる嫌な臭いが周囲に漂う。
やがて煙が晴れる。
――リリアムは消し炭となった俺の姿を想像し、勝ち誇った顔をしていることだろう。
「なんだ。この程度か」
「え゛ッ!? な、なんでェ!?!?」
攻撃を受け止めた右腕は、肘から先が消滅し、断面は熱で黒コゲになっていた。
――HP1200/1700
↓
――HP1300/1700
↓
――HP1400/1700
だが消滅した右腕はニョキニョキと生え、5本の指が爪までしっかり生えた状態で完全復活する。
――HP1700/1700
「身体を貫通して胸にデカい穴が空くくらいの威力は覚悟してたが、まさかあれだけ啖呵切ってこの程度とはな」
しかし無理もない。
いかにリリアムが天才ともてはやされていても彼女のレベルは30。
対する俺はレベル85。
例え1度でMPを使い切る強力な魔法を放とうが、高そうな杖で威力を強化しようが、レベル55の差は覆らない。
「そ、そんな……そんなはずじゃないのに……ッ!」
「さて、それじゃあ今度はこっちの番かな?」
「ま、待ってッ!」
「待たねェよ。テメェが俺を待ったことなんか一度もなかっただろうが」
リリアムは腰を抜かし後ずさるも、すぐ後ろには壁しかない。
「ほ、本当に殺す気? アンタ、人殺しになるのよ! アタシを殺したら聖教会が黙ってないわよ! ア、アタシは最強の聖騎士部隊、《聖痕の騎士団》の1人なんだから!」
「その脅しはもう遅せェよ」
ヴァナルガンドの異空間からガーレンの義手を取り出し、リリアムに向けて投げる。
「こ、これ……ガーレンの義手……ってことは、アンタ、もう……ッ!」
「俺はとっくに人殺しだよ。1人殺そうが2人殺そうが変わらねェ――そもそもミノタウロスの囮にしたお前も、もはや人殺しだろうが。お前に障壁魔法で退路を断たれて置き去りにされた時の絶望は凄かったよ。どうして俺だけこんな目にって、世界の全てを恨んだよ」
実際俺はミノタウロスに一度殺されている。
間接的に、勇者パーティに殺されているのだ。
俺を殺した奴が、人殺しはいけないことだなんてどの面さげて言っているんだという話だ。
「やだ、やだやだやだ! アタシ死にたくない! 助けてェ! 助けてシルヴァン!!」
リリアムはポロポロと涙と鼻水を零しながら、せめてもの抵抗と杖でブンブンと振り回している。
股の下からは尿が溢れ、足元に水溜まりを作っていた。
「本当に死にたくないのか?」
「…………はェ?」
「俺も鬼じゃないからな、誠意を見せたら生かしてやってもいいぜ」
「ほ、本当!? せ、誠意って!? どうすればいいの!?」
リリアムの顔にわずかな希望が宿る。
俺は再度異空間に手を伸ばし、金属製の首輪をリリアムの足元に投げた。
落下の衝撃でピチャ――と尿が跳ねる。
「これは……奴隷の首輪?」
「元奴隷の奴隷になる。その屈辱を受け入れられるなら、命までは取らないでやってもいい」
「…………ど、奴隷、このアタシが……奴隷に堕ちる」
リリアムは顔を歪めながら首輪を見つめるが、しばらくすると決心がついたようで、尿で濡れた首輪を手に取って自身の首に装着した。
「わ、分かったわ。アタシ、アンタの奴隷になる。だから、殺さないで……ほ、ほら、付けたわよ」
首輪をつけたリリアムと契約を交わす。
これでもう、リリアムは自分の意思で首輪を外すことが出来ないし、俺がセットになっている指輪に魔力を込めれば首が締まるようになっている。
「(シカイ族の奴隷になるとか本当最悪! でも、命は助かった。隙を見て逃げ出してやるわ。聖教会の解呪師は優秀よ。例え奴隷の首輪だって、主の許可を得ずに外すことが出来るんだから!)」
「よし。それじゃあ最初の命令だ――――死ね」
「――え゛ッ!?!?」
指輪に魔力を込めると、リリアムの首が締まり呼吸を奪う。
「かはッ!? な、なんでッ!? ど、奴隷になったら……助けてくれるって……ッ!」
「悪いな。奴隷時代の経験で、奴隷とは主に殺されるもんだと思っててよ。悪いね、教養がないもんで」
奴隷の時、リリアムには何度も何度も首輪を締められた。
だから絶対、コイツは奴隷の首輪で窒息死させると決めていた。
リリアムはまんまと俺の言葉を信じて奴隷の契約を結んでしまった訳だ。
「ぐェッ……ッ! ぐるじい……ッ! し、死んじゃう……ッ!」
リリアムの可愛らしい顔は苦悶に歪み、血流が止まって一回り大きくむくれ、顔色は青を通し越して黄土色になっていく。
「ぢにだぐ、ない……あ゛ッ!? ア゛ア゛ッ!!」
行き場を失った顔面の血液が、目や鼻や耳から噴出する。
リリアムは最後まで「死にたくない」と言葉を漏らしながら、息絶えた。
『これで2人目――じゃな』
「ああ。残るはシルヴァンとルゥルゥだ」
とはいえ、正直なところルゥルゥにはそこまで強い恨みはない。
あいつは良くも悪くも無関心な奴だったからな。
とはいえ、俺が他の勇者パーティを殺したことがバレたら面倒なので、デュラハンを差し向けて殺すよう指示している。
つまり、残る復讐対象はシルヴァンのみ。
リリアムの雷魔法で袖が消滅したロングコートを脱いでヴァナルガンドに収納し、新しいロングコートを取り出して羽織る。
「最後はお前だ――シルヴァン」
ヴァナルガンドの中にはロングコートが3着入ってます。




