39 勇者パーティと伝説の武器
今回は勇者パーティ視点のお話です。
――一週間程、時間は遡る。
――勇者パーティが宿泊する宿のスイートルーム。
そこに勇者パーティの面々が集結していた。
ソファに深く腰掛ける勇者シルヴァンが最初に口を開く。
「王宮からの指示で、来週S級ダンジョン【緋宵月】にて真紅の吸血姫を討伐し、ダンジョンを完全攻略することが決定した」
「でもシルヴァン、完全攻略するって言っても、アタシ達シドが死んでから全然探索進んでないんですけど。ガーレンも結局腕切断することになっちゃったし」
魔術師リリアムが不安げに答える。
隣に座るガーレンを見やれば、以前まであった逞しい右腕がなくなっている。
結局ポイズンゴブリンの毒を治療することは叶わず、このまま放置すると命に関わるということで切断に至ったのであった。
更にシドとの決闘で片目も潰され眼帯を付けている。
「ルゥルゥはやる気ないし、ガーレンもこんなだし、本当にアタシ達だけでいけるのかなぁ……?」
「問題ないよ。ボクは王族の血を継ぎ、ユニーククラスである選ばれし勇者だ。リリアムもこの年で《聖痕の騎士団》の一席に数えられる聖教会が誇る天才少女。ガーレンは王宮騎士団の団長であり、腕さえ戻れば以前のように活躍してくれると信じている。ルゥルゥも多少ものぐさな所はあるが、やるときはやるとボクは信じている」
「だとしてもやっぱりアタシ達じゃ……ガーレンもなんか言ってよ」
「こんな腕じゃもう戦えねェよ……騎士団にも戻れねェ……俺の人生お先真っ暗……それもこれもあのシカイ族のせいだ……ッ!」
ガーレンはA級ダンジョン【藍蘭湖】にてシド・ラノルスに敗北し、更に腕を切断してから覇気を失いすっかり腑抜けてしまった。
今も持ち込んだ酒瓶を煽り、昼間から泥酔している始末であった。
「…………」
ルゥルゥは相変わらず何を考えているのか分からないといった表情で、口も聞かずに部屋の隅でぼうっとしている。
「安心してくれ。秘策がある」
シルヴァンは部屋の奥から複数の箱を持ってきた。
「シルヴァン、これは?」
「王宮及び聖教会から届いた支援物資だ」
1つずつ箱を開けていく。
最初に出てきたのは、宝石の埋め込まれた華美な装飾が施された長剣。
「これは初代国王がA級ダンジョンをクリアした際に入手したと言われる《宝剣・バルムンク》――王宮の宝物庫に保管されていたものだが、期待を込めて陛下から下賜された。この剣は不死者の再生能力を一時的に奪う能力を持っている。真紅の吸血姫にも通用する代物だ。これはボクが使わせてもらうよ」
次の箱から出てきたのは、大きな水晶が先端についた杖。
「これは聖教会より聖遺物認定を受けている《雷燼杖・アロン》――300年前のダンジョン崩壊によってA級ダンジョンの魔物が地上に溢れだした際、当時の《聖痕の騎士団》がそれを用いて放った雷撃で、黒龍を撃ち落としたと言われている。リリアムは雷魔法が得意だから、必ず使いこなせるはずさ」
「これを……アタシに……?」
リリアムは恐る恐る杖を手に取る。
「堅物の聖教会が聖遺物の持ち出しを許可したんだ。それだけ期待しているということだろうね」
「分かったわ。アタシ、必ず使いこなしてみせる!」
シルヴァンは「良い子だ」とリリアムの頭を撫でた後、次の箱を開ける。
入っていたのは大男サイズに作られた義手であった。
手の甲の部分に大きな魔石が埋め込まれており、細部にも加工された小さな魔石がいくつも装飾されている。
「これは魔道具職人が最新技術を注ぎ込んで完成させた魔導義手だ。本来の肉体と遜色なく動かせる代物で、頑丈さも折り紙付き。これがあればガーレンは本来の力を取り戻せるはずだ」
「なっ!? 本当かッ!?」
無気力状態で酒を飲んでいたガーレンは、シルヴァンの言葉を聞いて酒瓶を放り投げて義手にすり寄る。
「勿論だとも。今日中に装着手術を行う予定だ。可能な限り早く義手に慣れて欲しいからね。それに魔石の力でステータスに補正がかかるから、以前よりも強くなれるはずさ」
「はははッ! 怪我の功名って奴だなこりゃ! 神は俺を見捨てていなかったぜッ!」
「も~❤ ガーレンったら急に元気になるじゃん❤」
「お前もメスガキ度合が復活してるじゃねェか!」
「だって聖遺物だよ~❤ 聖教会の人間でも一生に一度見られるかどうかの激レアアイテムを使えるんだもん❤ やる気でるってもんでしょ❤ シルヴァンだ~いすきッ❤」
杖を頬ずりするリリアムと、残った左腕でガッツポーズするガーレン。
盛り上がる2人をよそに、シルヴァンは最後の箱を開ける。
「…………ッ!!」
その中身を見たルゥルゥは、一気に目の色を変えた。
「おっと……やはりルゥルゥも中身が気になるみたいだね」
普段無表情のルゥルゥが目の色を変えたのを見て、したり顔をするシルヴァン。
「《漆刃・ウェウェナン》――80年前の王国とラギウ族との戦争で、ラギウ族の族長の得物だった短剣だ。君もラギウ族だから、きっと知っていると思っていたよ――ラギウ族との戦争では王国側が勝利し、ラギウ族は降伏の証として族長の首とこの《魔刃・ウェウェナン》を王宮に捧げた。もし【緋宵月】の攻略に成功すれば、本来の持ち主であるラギウ族の君に返そう。勿論、攻略の際も使って貰って構わないよ」
「…………」
ルゥルゥはスタスタとシルヴァンの元に歩み寄り、短剣を手に取る。
鞘から刃を抜き、光に照らして数秒見つめると、再度鞘に戻して懐に入れた。
「ふふっ、どうやらお気に召してくれたようだね」
「ははっ❤ こんなやる気に満ちたルゥルゥ見るの初めてなんですけど~❤ ウケる~❤」
王宮と聖教会から送られた伝説の武器を前に、勇者パーティはモチベーションを取り戻し結束する。
勇者シルヴァンは、やる気に満ち溢れる面々を見て、冷笑を浮かべながら告げた。
「さて、それじゃあ――英雄になりにいこうか」
次回より――ついに勇者パーティへの復讐開始!




